先週の火曜日に行ったとき「来週火曜日から空いてますけど」と言われ、「じゃあ火曜日でお願いします」と予約を取って普通に行ったら、なんとその日はバレンタインデーじゃないですか。
別に狙って行ったわけでもなく、かわいい歯科助手さんに導かれるまま「はい、火曜日でぜひ」と内心ウキウキしながら行ったわけです。
なんで「そういえば」と思い出したのか。
その日に気がついたのですよ。
チョコなんてものに縁がないからその日に気がついたんですよ!
そして縁がなかったから今更思いだしたんですよ!
やっぱり知り合いは、それとなく探りを入れてくるわけです。
「こいつはチョコなんてもらってないだろうが、一応念のため聞いておくか」という非モテ偵察を行ってくるのですよ。
「チョコ、もらいましたか?」
うるせいやい、と心の中では夕日に照らされながら河原で石ころを蹴っているわけですが、紳士なわたくしは「ええ! 歯医者で奥の仮の詰め歯ならもらいましてね! いやあ、ずいぶんと削り取られ、美女の歯科助手には歯石がたまっていますねと告白されましてね! よいバレンタインデーでしたよ! HAHAHA!」と充実した一日であったことを暴露してやると、さすがのわたくしの過密偉業スケジュールっぷりに「ああ、そうですか」と苦笑いを見せながらも恐れおののき、そそくさと目の前から退散していく姿を晒すのです。
まさに虎を前にしたウサギのように逃げ出すという具合でありまして、私は勝ち誇ったように笑みを浮かべるわけであります。
ああ、勝利し続ける男というのは罪だなと。
いつもながら歯医者にいくと死ぬほど緊張していて、水を飲む手が震えるというぐらいガチガチになっている。
「こ、このわしが、奮えておるわ……」
と心の中だけは余裕っぷりを示しているのです。
そしてその余裕っぷりは歯科助手の「奥歯の詰めものは取れやすいのでガムとかお餅とか、そういうくっつきやすいのは食べないでくださいね」という説明の時も相手をおののかせるほどに出ておりました。
「チョコは?」
「え?」
その質問を投げかけた時一瞬マスクの下の歯科助手の顔が歪むのを見逃さない。
(こいつがチョコ? もらえるのは義理か、その程度だろ、ふっ)
「チョコレートは食べていいんですか?」
なおも食い下がり必死の応戦。
弾幕の薄さに怯まず残り弾を敵前で打ち尽くします。
「え? ええ。キャラメルとか、そういうくっつきやすいものじゃなければ大丈夫ですよ」
そういう質問をしてしまったのも、歯科助手の後ろに見えるカレンダーの「14」の文字。
チョコなんてもらっていないのに。
せいぜい自分で買うぐらいなのに。
今日という日が憎けれど、決して同士を募るなどというマネはしたくなく、つい見せかけだけでも「ちょっとモテてます感」を出したかった……
ああ、その日は歯医者から出たとき世界が潤んでいたよパトラッシュ……
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