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あさかぜさんは見た

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07/19

Thu

2018

話下手。人づきあいが苦手。心が弱い。愚痴をすぐ吐く。優柔不断。挙げればいいところがないように思えてくる僕にもめでたく彼女が出来、なんとか続いている。
 どうして付き合いだしたのか、はたから見ても不思議に違いない。共通の趣味はなく、性格も対照的。読書の感想を書くサイトで互いに知り合い、面白い本を教えあっているうちに連絡先を交換し、毎日やり取りするようになった。
 やりとりはするが、互いに愚痴っぽく、互いに聞くときは苦痛を感じることなく聞いていた。一度吐いた愚痴は二度と繰り返さない。ルールはないが、しっかり守っていることはそのくらいだ。後は、互いにいいところがあったら褒めあう。愚痴っぽいネガティブな性格を補うための案だった。
 僕たちは幸運にも通勤する場所が近かった。付き合って三か月目頃に同棲の話を彼女が持ち出し、僕もすんなり了承した。
 気になることと言えば少しだけ変なことを僕に確認してきただけだ。
「私が変な趣味持ってても怒らない?」
「何それ?」
 と聞いたけれど、はぐらかされるだけだった。強く聞いても嫌われるだけだろうと聞かなかったけれど、考えは巡らせてみた。強烈なオタク趣味があるのだろうか。爬虫類マニアとか、昆虫マニアとかだろうか。ゲテモノ料理愛好家。考えてみたが、どれも違ったようだった。何かわからないほど気にならないので、忘れることにした。
 生活費や家賃は折半しあう。家事は分担するけれど、できないことは補い合う。互いの愚痴は絶対に言わない。ルールを決めあった。
 部屋選びは彼女が率先してやった。僕は周囲がうるさくなければいいと告げただけで、それ以外のことはまったく関与していない。どこで見つけたのか格安、四万の家賃で2LDKのアパートを見つけてきた。
 多少郊外だが、交通の便もよく、互いの通勤時間四十分圏内と好条件の物件で、年数は経っているものの、部屋の中はメンテナンスがよくされているのかボロが目立たない。
「こんないいところ、よく見つけたね」と褒めると「物凄い調べたからね」と自慢げに微笑んだ。
 僕にとって生まれて初めての同棲生活。うまくいくだろうかと不安が薄布のように被さっていたが、すぐに取り去ることが出来た。
 僕は残業がほとんどで帰宅時間がまちまちなのに対して、彼女はきっちり定時で帰ってくる。僕が帰ってくるとだいたい家事は済ませてある。ご飯もできているし、多目に作っているので次の日のお弁当のおかずも、しっかり揃っている。手際がいいのだろう。
 食事を済ませて一日のことを話し合い、愚痴を言いあい聞きあい、そしてそれぞれの部屋に戻る。彼女の部屋の扉が閉じられると、たまに中から話し声が聞こえてくる。よくネット上の友達とネット通話することがあったから、気にはならなかったし、別に異性と話していても気にするほどではなかった。僕のようなものと付き合ってもらえているだけでも、ありがたいことだと思っていたから。
 しばらく一緒に住んで、このまま上手くいったら結婚も考えなきゃいけないかもなと思い、
「そういえば両親って近くに住んでるの?」と晩御飯の時に聞くと、
「私両親を幼いころに亡くして、おじいちゃんおばあちゃんに育てられた」と寂しそうにうつむいたので、ちょっとした心の傷になっているのだろうと口をつぐんだ。
 同棲してから四か月目のある土曜日、ドアを強く叩きインターフォンを何度も押された。休みの日でゆっくり寝ようと思っていた午前八時半、隣の夫妻が怒鳴り込んできた。
「ちょっとあんたいい加減にしてくださいよ! 妻が困ってるんですよ!」
「ちょ、ちょっと待ってください。何の話ですか?」
 僕には怒っている理由がわからない。
「しらばっくれないでくださいよ! コンコンコンコンコンコンコンコン! 昼間ずっと壁叩いているでしょ! 妻がずっと前から被害にあっているって言うから本当かと思って昨日は有給まで取って確かめたんですけどね! あんた何のつもりか知らないけど壁を叩いてうちに嫌がらせしているんでしょ!」
 バカな。と僕も強く憤った。
「それは僕らじゃないですよ。僕らは平日は仕事で土日が休日なんです! 平日の昼間に家にいるわけないでしょう! 僕も! 彼女も! 職場にいるんです! それにあなたたちに嫌がらせするような理由ありますか? 何もないでしょ! 滅多に会わないんだから。変な言いがかりつけないでくださいよ! どうしてもって言うならね! 僕らじゃなくて管理会社に言ってくださいよ! 建物の異常かもしれないじゃないですか!」
 僕も我ながら、よく他人に対してここまで強気に言えたものだと感じた。心臓は破れそうなほど鼓動を打ってるし、緊張で強張った拳には汗がじっとりと出てきている。正直人の怒りを真正面から受けて恐怖で倒れてしまいそうなほど頭がクラクラしていた。
 何か言おうとする旦那さんの後ろに隠れていた奥さんが「あ、あの……」と小さな声を絞り上げて前へ出てきた。
「話し声がするんです。居ないのに話し声がするっておかしくありませんか? 誰かに鍵を渡してるとか合鍵で入られてるとか、そういうのないんですか?」
「話し声って……」
 さすがに僕も少し怖くなってくる。物を取られている形跡はないにしろ、誰かに部屋に入られているのなら、鍵を変えなきゃいけない。事実がわからないだけに、どうやって確かめていいのかもわからない。
 その場は収まったものの、奥さんから少し詳しいことを聞いてみた。
 話し声と叩く音は週に一二度必ずあるという。多い時は五度もあったらしい。音は僕らが引っ越してきて、一か月後に鳴り出した。どう考えても僕らのせいだとしか考えられない、と奥さんは弱々しい声ながらハッキリと告げた。そして話し声は一人ではなく複数のように聞こえるということだった。
 家の中に戻り彼女が心配そうな顔で起きてきたので事の次第を話すと「そうなんだ」と驚く様子もなく答えた。彼女の冷静さに驚かされたものの、起きたばかりだし寝ぼけているのか、それとも興味がないのか、いずれにせよ痛い出費だけれど監視カメラを買ってリビングを撮っていいだろうかと許可を取り一週間撮影した。ちょうど隣とはリビング同士が壁で仕切られている。
 結果、何一つ怪しいものは映らなかった。
 結果を踏まえて隣の奥さんに話に行くと「今週は何も音は鳴りませんでした」と伝えられた。僕らの動きがわかっているのだろうか。もしかしたら逆に監視カメラがあるのかもしれない。部屋中細かく、通気口まで丁寧に調べたけれど何も見つからない。それからというもの、特に音がするとは隣も言わなかったし、合鍵が作られたのかと少し不安にも思うところはあったが、徐々に忘れていった。
 徐々に夏の暑さがきつくなり、連日猛暑のニュースが流れてくるある日、僕は珍しく残業もなく定時で帰ってこれた。会社はろくにクーラーなどつけないから、ひたすら暑さに耐えながら仕事をしなければならないので、木曜だったけれど、さすがに疲労してきていた。
 僕はリビングのカーペットに着替えもせずに倒れこんでしまい、少しだけ休もうと死んだように横たわっていた。
 耳をカーペットにつけていたけれど、話し声が聞こえる。男女の声のような気がする。ふっと耳を離すと聞こえなくなる。床下から伝わってくるのだろうか。もう一度、今度はフローリングに耳を付けると、やはりぼんやりと聞こえてくる。
 ゴンッ! と隣の壁が鳴った。ふと壁を見てしまったが、きっと何かぶつかったのだろう。思い切りぶつかったような音ではあったが、壁がしっかりしているのか、それほど気にならない。うるさいほど壁を叩いていたのだろうか。小さな音でも気になりだすと止まらなくなる心理だろうか。気にするほどでもないでしょ、と思ってしまった。
 いつも僕が残業で二時間近く定時より遅れて帰ってくるせいか、彼女の部屋の扉は閉まっている。晩御飯はまだ作られていない。帰ってきていないのだろうか。
 フローリングからはもう声が聞こえない。その代わり今度は彼女の部屋から会話のようなものが聞こえだした。明らかに彼女の声ではない。
 緊張と恐怖が体中を締め付ける。
 まさか隣の奥さんが言っていた不審者かと思い勢いよくドアを開けて「誰!?」と叫ぶと、パソコンの前に座る彼女の姿があった。会話はパソコンのスピーカーから聞こえていた。
「なんだ。びっくりさせないでよ」
 恐怖がするりと抜け落ちた僕は安心しすぎて床にへたり込んでしまいそうだった。
 しかし安心感は一気に吹き飛んだ。彼女はじっとこちらを見るだけで何も言ってこない。隣の奥さんの話をした時のように無反応で冷たい瞳をこちらに向けている。
「ごめん。部屋に急に入っちゃったから怒ってるんだよね。本当にごめん。不法侵入されていたのかと勘違いして……」
 僕が言葉に詰まったのは、スピーカーから流れてくる会話だった。親子の会話のようだが、彼女の声に似ている。男性の声も、よくテレビなどで匿名の男性がインタビューを受けた時に声を低くぼかしたようだった。
 無言の空間に音声だけが流れる。そして音声は彼女の名前を呼んだ。
「あ、それ、何かの、録音?」
「そう。自分で録った」
「全部、自分で?」
「そう。全部自分で。両親の会話も全部」
 彼女の表情が緩むことはない。淡々と冷たいまま、無表情のまま。ふと、この部屋に住む前に僕に確認してきたことを思い出した。
「あ、変な趣味ってこのこと? 僕気にしないよ。大丈夫大丈夫」
 何故家族の会話のような録音をして自分で聞いているのか、聞けなかった。もしかしたらネット声優のような活動をやっているのかもしれないし、何か今聞くのは気まずい雰囲気だった。
「私ね、家族ってものを知らないから、ずっと作ってるの」
「え? 家族を作る?」
 うつろな目で彼女は視線を逸らさず見つめてくる。
「こうやってね、自分で録音して、音声変えて、家族ごっこしてるんだ。少しでも家族がいる気分を味わいたくて」
 僕は言葉に詰まった。それほど両親のいないことが彼女の心を孤独に蝕んでいたのだ。
「じゃあ、壁の音は? 君がやったの?」
 聞いた途端、彼女の瞳から光が消えた気がした。暗い井戸の底を覗き込んでいる気分だ。背筋を悪寒が走る。
 黙ったっきり何も言わない。否定しないということは、彼女がやっていたのか。でも、彼女も平日は仕事のはずだ。監視カメラには何も映っていなかったし、だいたい一緒の時間に出て電車にも乗り込んでいる。壁の音は彼女ではない。
 その日、僕が久しぶりに晩御飯を作ることになったが、声をかけても彼女が部屋から出てくることはなかった。
 次の日彼女は朝早く仕事に出て行ってしまった。怒っているのだろうか。まさか別れ話を切り出されるかもしれない。不安にかられていると、また隣の奥さんが訪ねてきた。
「すみません忙しいところ。昨日も音がしたんです。夕方の六時くらいだったと思いますから、家にいらっしゃいましたよね?」
「六時……え、ええ。たぶんその時僕は疲れて床に倒れこんでいたと……あっ」
「はい?」
 床から話し声が聞こえたような気が、とは言えなかった。彼女のパソコンの音だったかもしれないため確証をもって話せない。
「本当に僕らじゃないんです。信じてください。あの、今日一日だけでいいので、そちらの家で壁が鳴るか聞いていていいですか? 僕監視カメラまで買って家の中映しましたけど何もなかったんです。こうなったらどうしても犯人を捕まえたい」
 最初は渋っていた奥さんだったが、夕方までだったらと許してくれた。家には監視カメラ。そして僕は隣の部屋で音が鳴るまで待機。今日不審者が訪れるとは限らないけれど、やらないよりかはましだ。会社には仮病を装って強引に休んだ。明日を言われるかわからないけれど、もう知らない。
 隣の家に入ると違和感があった。古い感じがする。使い古しているのだろうか。うちのメンテナンスが良すぎるだけなのか。
「やっぱ、四万なんて、こんな感じですよね」
 つい思ったことが口に出てしまい、時すでに遅しだった。
「四万? 何の話ですか?」
「あ、家賃の」
「家賃? 八万じゃないんですか?」
 八万? じゃあうちは半額であの部屋を借りているのか。何故、半額? 単純に考えられることは「事故物件」だということだ。誰か自殺したか、病気で亡くなって発見がだいぶ遅れたとか、殺されたとか。だから部屋も新しい装いだったんだ。そう考えると納得がいく。
 飲み物や軽い昼ご飯をご馳走してくれたけれど、基本的には僕はずっと壁に耳を当てていた。これが結構辛い。十分ごとに少し休みながら迎えた午後四時頃。
 コンコンコンコンコンコン。
 コンコンコンコンコンコン。
 壁が鳴り出した。しかもかなりハッキリと。まるで壁が薄いかのように聞こえてくる。だけれど昨日こちら側で鳴ったであろう音はこもっていてハッキリではなかった。
 いずれにせよ、不審者が現れたのだ。合鍵なのか何なのかわからないけれど、僕らの家の中に誰かがいる。
 僕は姿を確かめるために無防備にも家に走った。
「あ、警察を呼んだ方が!」
 奥さんの声が背中から聞こえたけれど、僕は必死だった。何が目的かわからないが許せない気持ちでいっぱいだった。相手がもし刃物を持っていたら等とも考えられなかった。
 この目で確かめてやる、という気持ちでいっぱいだった。
 部屋の中に靴も脱がずに入っていくと、そこには、誰も、いなかった。隠れたのか。くまなく部屋を探す。誰もいない。逃げられたのか。
 深いため息が漏れた。
 夕方彼女が帰ってくると「あら? 私よりも早いなんて珍しい」と笑顔で話しかけてきてくれた。いつもの彼女で怒っている様子も昨日のような冷たさもない。
「どうやらうちの合鍵を作られてしまっているようなんだ。明日管理会社に言って鍵を変えるよ」
 次の日、重要な話もあり、社長に直接繋いでもらうように電話をかけ、事情を話した。
「リビング以外からは、鳴らないんですよね?」
 だいぶしわがれた声だった。
「まあ、恐らく。それとうちの家賃が安いのが他の部屋と違って安いのが気になるんですが、事故物件かなんかなんですか?」
「それをわかって入られたのでは?」
「え? 僕は何も聞いてないです」
「じゃあ、何も聞いてないんですね」
 プライバシーに関わることだからと社長は何も話してくれず電話を切られたが、すぐさま僕はネットで検索した。過去の記事か事件か、何か引っかからないか。するとすんなりと引っかかった。
 夫婦、遺体で発見される。夫は白骨化。妻は死後一週間。連絡が付かず不審に思った管理会社社長が第一発見者。
 苗字は、彼女と一緒だった。
 司法解剖の結果、夫は脳梗塞で亡くなっていたことが判明。妻は外傷などなかったが極度に痩せており、死因は餓死。
 二十二年前の出来事だった。
 もし彼女の両親だとすると彼女が三歳頃の出来事だ。
 帰ってきた彼女に、二十二年前の事件を聞く。
 しんと冷たく静まり返る。いつもの照明なのに部屋が暗くなったように感じる。
 彼女の声には抑揚がなかった。
「お父さんは脳梗塞で倒れてから気を失うまでの間ずっと隣の部屋を壁越しに叩いていた。バブル崩壊後、一度は職を失ったお父さんと働きに出ていたお母さんの収入では子育てができなくなって私は祖父母の元に、事件が起こる四か月前に預けられた」
 まるで見てきたかのような言いようだった。
「ここはね、ある意味お父さんとお母さんの墓場のようなものなんだ。奇妙な現象が起こるのも知っていた。だから数か月おきに空く。きっと、まだここにいるんだと思って住むことにした」
 淡々と機械のように言葉を発する彼女。
「私には聞こえる。家族の声が。録音してたでしょ。何を言ったかは再生するまで覚えてないんだ。あなたはとてもいい人だから一緒になれって両親も言ってた」
 一歩ずつ近づいてくる中、体が凍ったように動かせない。
 足元から振動を感じる。
 コンコンコンコン。
 コンコンコンコンコンコン。
 打つ音が増えていく。
 その音は彼女の部屋のドアからも聞こえてくる。
 壁の音に囲まれ、血の気の引いた紫色の彼女の唇が重なってきた。

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05/19

Sat

2012

久しぶりに怖い夢を見たというか、起きても覚えていた。

夢は見ているのかもしれないが、忘れてしまう。

もしかしたらよい夢や心地よい夢は忘れやすいものなのかもしれない。
その代わり、緊迫した夢は起きても居心地が悪い。

その夢は、中学生の頃の友人からだった。
どういう経緯で連絡を取るようになったかは忘れたけれど、映像電話を使って話していたが画面の向こう側に出てきた顔はやつれて、顔もどす黒く、とてもじゃないが元気そうだとはいえない様な顔だった。

私は彼のことを心配して「会おう」と約束し、住んでいる場所に覚えがあったので自転車をこいで走っていった。
車の通れるような路地を自転車で走りながら、どこらへんだろうと探していく。
最初はきちんと碁盤の目に住宅地も整備されていたが、だんだんとアスファルトがなくなり、タイヤの跡で草だけが剥げたようなでこぼこ道を行くと、ようやく民家の点在する一角に彼の住んでいる家を見つけて自転車を止めた。

ちょうど彼は地下から友達と上がってきたところだったが、その地下というのが入り口だけでも少し気持ち悪い。
というのも、入り口から奥へとフジツボのようなものが生えていて、私はそれを見たとき、キノコを栽培しているのだと直感的に思った。
その胞子が入り口にまで来ているのだ、と。

久しぶりに旧友に出会い、2階へと通される。
その家では旧友を含め3人住んでいたのだが、2階にいたもう1人のやつは、完全に薬をやっているのか少し話がわからなくて、支離滅裂なことを言っていた。
そして台所の近くの壁にかけてあった、小型の針付の瓶。
ちょうどサイズが小指の先ほどで、そこから小さな針がついているものがびっしりと並べて掛けられてあり、ひとつ小瓶を抜き取ると腕に注射をしだして、先ほどのピリピリしたような雰囲気とは打って変わって安心したような表情になり穏やかになった。

部屋の中も見回ったが掃除などされておらず汚い。
それに、こいつらやってるのヤクだろと、さすがにわかり旧友を外へ誘い出し自転車に乗せて逃げようとする。
旧友を乗せて自転車をこぐのは大変で、のろのろとふらつきながらも走るが、最初地下からあがってきたやつが気がつき、後ろで何か叫びながら追いかけてきていた。
マズイなと感じながら余計に力を入れてでこぼこの悪路を走る。
やがてパンパン! と乾いた音が鳴ったかと思うと、目の前の民家のトタンに穴が開く。
やられる。逃げないと。
そうやって逃げて、目が覚めた夢。

起きてからも友人の亡霊のような顔が忘れられなかった。

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07/21

Wed

2010

絶望倶楽部 南雲玲の復讐

あまりに内容がダークなので「つづきはこちら」のところにあります。

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04/05

Mon

2010

ある街の一角にひっそりと小屋が建っている。
周囲は住宅街でこの区域に特に人が来る理由がないにもかかわらず、連日小屋には行列ができている。
並んでも小屋にその日のうちに全員入れるというわけではない。
その小屋はある人気占い師の小屋であった。
口コミで評判が「怖いほどよく当たる」と広がり今や近所では知らないものはいない。
わざわざ泊り込みで遠方から来るお客もいるほどだ。
いつからここで占いをしていたのか、占い師が何者かも、誰一人わからなかった。
占い中も外出する時もフードを深くかぶっているので誰一人顔を見た者はいない。
夜も深くなり、並んでいた人たちもようやく諦めてしんと静まり返った。
占い師は仕事が終わり晩御飯を食べていなかったので買い求めようと小屋を出た時、急に女にすがりつかれた。
夜中にも関わらずサングラスをしていて顔がよくわからなかったが、泣いているようだった。
「お願いします!どうか私を!占って!お願い!もうあなたしかいないんです!」
人気占い師だけに泣きつかれることはよくあることだったので、諭して今日は帰らそうと思った。
この手のタイプは諦めずにいつまでも嘆願してくることも考えられたがその時は無視をして一息つこうと思っていた。
「お願い!よく当たる占い師にあたしもう死ぬって言われたんです!どうか助けて!私の命を救って!」
女の懇願にはっとした占い師は「またこの人も妙な占いを信じてどうしようもなくなったのだろうか」と思った。
占いは吉凶を予測するものであって未来を決め付けるものではない。
占いにどっぷりとはまり込み、まるで占いが「避けられない未来を決めるもの」であると勘違いする人も中にはいるのだ。
占い師は適当に占って、いいことを言って帰そうかと考えた。そのほうが早く済むかもしれない。
「まずは中へ」
占い師は女を小屋の中へと入れた。
小屋の中は特に呪術めいた道具が置かれているわけでもなく、暖色系の照明が明るくない程度に照らし、ほんのりと香の香りがただよっていて女の気分を落ち着かせた。
女の話を聞くと占った結果を言われたはいいが、特に何かをすれば回避ができるなど助言もなく「時間の巡り会わせだ」の一言で追い出されたという。
「それはひどい話ですね」
占い師は女に同情的な言葉を向けて気持ちをなだめた。
「時間のめぐり合わせですか。そのようなひどい占い師にめぐり合わなければあなたもこうして不安な気持ちで私のところに訪れなくても済んだでしょうに。おかわいそうに」
女は我慢していたのか、せきを切ったように「どうすればいいんですか。結婚も間近なのに死ぬなんて嫌です。私幸せになりたいのに。あの占い師さえ変なこと言わなければ幸せになれたのに」と泣きじゃくった。
「ほう…ご結婚を…」
占い師は「もう死ぬ」と思い込んでいる女に「おめでとう」も言えない。
事情が事情なだけに占って回避方法を教えてあげようと考えた。
占いの方法は占星術とタロットを組み合わせた占い師が独自に開発した方法だった。
「これからシャッフルしますのでタロットの上に手を置いて気持ちを集中させてください」
占い師はタロットの上に女の手を乗せてカードを切り出した。
カードの並べ方はケルト十字法といって十枚を配置し、最終的な結果は右上の一枚に集約される。
カードを一枚一枚並べている時、あまりの不安からか女が勝手にしゃべりだす。
「私ようやく今の彼と一緒になれたんです。長い時間をかけてようやくめぐり合えたんです。彼のためにどんなことでもしました。私この幸せが消えるなんて耐えられない。これからも彼と一緒に過ごしたい。もう五年も耐えてきたんです」
五年。
占い師は「私が占いを始めたのもその時期なんですよ」と優しく言った。
占い中は集中しているので静かにして欲しいところだが、女の心中を考えるとそうもいかないだろうと諦めながら占いをすすめた。
「彼と会ったとき、絶対この人を私のものにするんだって。ずっとがんばってきたのに」
女が自分の話とともにすすり泣き、止めることなく続ける。
「彼、離婚してバツイチなんですけど、離婚してからずっと苦しい状況を支えあって乗り越えてきたんです。それでようやく生活も安定してきて、二人で新しい区切りをして、もっと幸せになろうねって…」
占い師のフードの奥がピクリと動いている。
十枚目の最終結果のカードを置く手が少し震えていることに女は気がつかない。
「あなたの…生年月日…教えていただけませんか?それと、顔の相も見たいのでサングラスを取って…」
カードをすべて置き終った占い師が女に聞く声が震えている。
女が生年月日を占い師に告げると「次はお顔を見させていただきますので」と占い師は言ったがフードがゆれているのが女でもわかった。
女がゆっくりとサングラスを取ると、占い師はガタリと音を立てて急に椅子から立ち上がった。
「あ、あの…?」
不安げに女は立ち上がった占い師を見つめる。
占い師はふらふらと壁際の棚まで歩いていき、震えているようだった。
「だ、大丈夫ですか?」
女が心配して聞くと、占い師は低くはっきりと聞こえる声で女へ聞いた。
「あなたが…今度結婚する人は――さん…ですね?」
「え?」
女は凍りついた。まさか知り合い?一体誰なのだろう。
「そうですけど、あなたは…?」
女の疑問に占い師は振り向き、一気に自分のフードをめくりあげた。
やや室内が暗いといっても顔ははっきりとわかるほどだ。
「え?」
女は占い師の顔を見てもきょとんとしている。
「あの、どこかでお会いしましたか?」
女の言葉に占い師は破裂したように声を荒げた。
「あんたが五年前に寝取った男の元嫁だよ!あんたのせいで私の人生は狂ったんだ!許せない!あんたをずっと殺そうと思ってた!あたしには何度も友人面して会っているはずなのに、あんた自分が寝取った男の女の顔さえも覚えていないくらいこの五年間のうのうと生きてきたのか!友達面してあたしをはめやがって!信じられないクズだよ!あんたさえいなければ…!うじ虫の豚女め!殺してやる!」
ひゃっ、と声が女の恐怖に硬直した顔からもれたと同時に、首筋にはペーパーナイフが深々と刺さっていた。
「あんた、自業自得だよ。運命には逆らえなかったね。これも時間の巡り会わせだね」
女はペーパーナイフを引き抜こうとして床をずるずると這い回り、ようやく引き抜くと首筋から勢いよく血が噴き出て、口からも血があふれてくる。
「あっ…あっ…」
言葉すらも出せずに体の潰された虫のようにか細く動く女を占い師は見下す。
「あたしが過ごしたこの五年間は屈辱だったよー?近所にはうわさが広まって会社すらも追われてさー。あんたさえいなければこうはならなかったよ。…あんたさえいなければ!」
語気を荒げ、ゆがみきった満面の笑みを浮かべて愉快そうな声で占い師は続ける。
「あたしは逃げたよ。あの街から。それからはホームレスみたいな暮らししなくちゃいけなくてさー。女のホームレス。わかるー?夜とかさ何度も知らない男に犯されてさー。それならっていっそのこと風俗で働こうってさ、趣味だった占いを女の子にやってたらよく当たるって評判になって、それでこの仕事始めたんだー。でもあんたのことはずっと忘れたことなかったよぉ?く…くくくくくっ…」
焦点の開ききった女の顔を足蹴にする。
「死んだ?死んだの?ホント?ホントに!?アタシ、ヨウヤクヤッタノ!?」
何度も何度も女の顔を蹴り、愉悦で声が高揚して引きつるほどだった。口からは興奮のあまりよだれが垂れ、目は長年望んでいた光景をしっかりと目に焼き付けようと大きく開いている。
占い師は先ほど並べたタロットカードの十番目の位置を開く。
塔の正位置。
崩壊を意味する塔のカードにぴったりの結末だと占い師は思った。
もう一度顔をジリジリと踏みにじる。女は首から血を広げるだけでもう反応しない。
徐々に高揚感が占い師の体を駆け巡る。
「く、くくくくく…キャハハ…キャーッハッハッハ!ザマーミロ!ゴミムシオンナメ!ザマーミロ!キャーハハハハッハ!」
怪鳥のような声を深夜の空に響かせながら占い師は外へ駆け出す。
そうだ、この愉快な気持ちのままあいつの死体の前で祝杯でもあげよう。
赤ワインでも買って飲み明かそう。
女がニタニタと笑みを浮かべながら路地の角を曲がった時、サーチライトにぱっと視界が白くなりガコンという音とタイヤの急ブレーキの音と体が捻じ曲がるような衝撃と、鼻の奥に強い血の臭いを感じた。
急に視界が変わったことによって何が起こったのか理解できないまま占い師は「テレビが地震で落ちちゃった。直さないと」と思った。
その次に占い師はアスファルトに広がる自分の血を見て「ああ、私、ひかれたんだ」とようやく事態を理解した。
塔の正位置。
あれは…私の…結果…?
だんだんと意識が薄れてくる。
あの女さえいなければよかったんだ。
あの女さえいなければ…。
そして最後に占い師は思い、絶命した。

――あ…もしかして、あの女を占っていなければ、私はこの時間に事故にあうこともなかった…?

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03/28

Sun

2010

父と私は生涯仲良くはできませんでした。
いつ頃からか、ひどく私を目の敵にするようになり、自分の気に入らないことがあると私に向かって暴言を吐くようになりました。
それはもう一方的でこちらの言葉など聴く耳持たず余計に苛立つようなので次第に私は黙るようになりました。
一日最低一回。
それでも一日二回ほどの細かな野次でも一年間で七百三十回以上も聞いていることになります。
最初の二、三年間はひどく落ち込みました。
それでも前向きに生きていこうと気持ちが切り替わると次の二年ほどは嫌悪するようになりました。
次の一年ほど、私は完全に無視をしようと会わずに避けて生きるようになりました。
私が一人暮らしを始めればよかったのですが、母親が生来の心配性でなかなか離れることもできず、精神的に崩れることもしばしばありましたので、一緒に住んでいたのが不幸の始まりでした。
また雇用も不安定で職を転々とすることが多い中「なぜ正社員で働かないのか」という親の不安と疑問を解消することができなかったのも父の暴言を助長させた原因のひとつかもしれません。
少ない給料で久しぶりに飲みに出かけたくなり、次の日の休日を利用して夜中になろうとしている時間に出かけようとすると父が私の部屋の前を監視するようにうろうろしていました。
ばったり出くわすと、またどんな野次が飛んでくるかわからないのでこそこそとチャンスを見計らって出かけていきました。
飲みに出かけるといつも泥酔して帰ってきます。
どうしても溜め込んでいた苛立ちが噴出してくるのを打ち消すように安酒を流すように飲んでしまい帰りの路上で嘔吐するという最悪の飲み方です。
いつ帰ったかもわからず、どうやって家に帰ってきたかもわからず、血管が脈打つごとに頭の中で破裂するのではないかという二日酔いの痛みの中、かろうじて自分のベッドに寝ていることはわかりました。
意識がもうろうとしている中、乱暴に扉を開ける音がしました。
そんなことをするのは家の中では父以外にはありえません。
そして力を込めて侮蔑の言葉を吐いていった時、自分の中で何かが抜け落ちていったのです。
きっとあれは「良心の存在」だったに違いありません。
すっと、体の中で何かがすり抜けていくような感覚に見舞われ、その後は憎悪しか残りませんでした。
私の部屋は二階で父はいつも一階の居間にいるので、私は一階のキッチンから果物ナイフを取り出して父を正面から刺しました。
ぐっと胸の中に全部の体重を預けるように刺した感触をよく覚えています。
その後のことはよく覚えていません。
記憶が飛んでしまったのか、気がついた母に向かって「こうなる前にもっと話し合うべきだった。それができなくてこんなことになったのは残念だ」と言ったのを覚えています。
私は家の中で父と過ごすのはもううんざりでしたので、透明の袋に入れ中に薬品を満たして私の部屋の窓伝いにある屋根にそのまま放置しておきました。
日に日に肉が溶け、筋肉と見られる赤い組織から骨が見え始めます。
袋の中は水槽の中の濃い藻のような緑色の液体に変色していってました。
その様子にほくそ笑みながら部屋の中から石をぶつけると袋に穴が開き、開いたところから勢いよく中の液体が噴水のように飛び出していきました。
しかしその量が半端なく、袋の中に入っている液体量よりもはるかに多いと思われる量が勢いよく出ていきます。
すべて中の液体が出ると、ずるずると屋根を滑り庭に落ちていきましたので、そのまま野ざらしにしていました。
ある日気がつくと白骨化した父の上半身を庭の板に立てかけて置いているので何をしているのかとあわてて外に出て、それをばらばらにしたのですが、庭に散乱した骨を見て、改めて拾い集め裏庭の石に骨を打ちつけて粉々にし、土にばら撒いて足でならしておきました。
庭にはまだ足の骨などの太い骨が残っておりましたから、それは足をてこにして折ってばら撒いておきました。
「これで大丈夫だと」安心したのもつかの間「父が無断欠勤を続けていて会社から連絡が来ないだろうか」と「隠し通すことの不安感」が日に日に大きくなったのです。
そしてついに恐れていた日が来ました。
ドンドンドンともガンガンガンともバタンバタンバタンとも聞こえる、家の扉を強烈にたたく音が家の中に響き渡ったのです。
たたく音がどれほど暴力的な音に聞こえたかたとえようもありません。
その時「知らない」ですべて隠し通せばいいのだと思っていました。
私は何も知らない。
被害者は私だ。
殺したことに何一つ悔いはない。
人を罵倒し続けることがどれだけ心をめちゃくちゃにする暴力かわからないのだ。
おびえる、というよりも「不安」の方が大きく、私は一体これからどうなるのだろうと真っ白になる気持ちが支配しました。
「出て来い!いるのはわかってるんだぞ!」
「いつまでそこにいるつもりだ!」
「この扉を開けろ!」
何人かいるようでそれぞれ叫びの声色が違っていました。
嫌だ。私は絶対出ないぞ。
ここを出たってもうおしまいなんだ。
一生殺人者として日陰者だ。
そうだ。母はどこだ。
探してもどこにも見当たりません。
そうか、母がしゃべったんだな。
こんな私はもう見たくないか。
そうだよな。
息がぷくぷくと湧き出てくるように力なく「くっくっく」と笑っているのが自分でもわかりました。
「早く開けろ!頼む!」
頼むだって?
どうせ警察に突き出すつもりだ。
私はもうここでいい。
ここでいいんだ。
私は目を閉じ、耳をふさいで丸くなって寝転がりました。



「先生、様子はどうでしょうか?」
とある病院の一室のベッドに人工呼吸器に繋がれた一人の男の姿があった。
男はうつろな目で天井を見つめたまま動かない。
白衣を着た医師と見られる男の周囲には数名の中年男女が心配そうな面持ちで医師の言葉を待っている。
「市販されてない強い睡眠薬を大量に服薬したようです。命は取り留めましたが、反応が見られません。このまま植物状態になる可能性が高いです」
言葉を受けて中年の女性が一人泣き出した。
「だってこの前まで元気でいたんですよ!?それがどうしてこんなことになったんですか!」
医師はその叫びの答えを持ち合わせてはおらず、神妙な顔をしながら泣き出した男の母親を見つめた。
「とにかく、できる限りのことはしてみます」
そういい残して医師は部屋を出て行った。
「やっぱり、自殺なのかね?」
「自殺する理由なんかありませんよ。何か他の事情があったんでしょう」
「そうだよな。あれだけ幸せに育ててもらって自殺なんて考えられない」
父親や親戚たちがあれこれとしゃべりだす。
二人ほどはずっと言葉を失った状態だった。
ベッドの上の男はうつろに虚空を見つめたまま乾いた眼から涙を流した。
話が終わると親戚一同病室からそろりそろりと出て行く。
扉は閉じられ、植物状態の男だけが取り残された。

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プロフィール

HN:
あさかぜ(光野朝風)
年齢:
44
性別:
男性
誕生日:
1979/06/25
自己紹介:
ひかりのあさかぜ(光野朝風)と読みますが光野(こうや)とか朝風(=はやぶさ)でもよろしゅうございます。
めんどくさがりやの自称作家。落ち着きなく感情的でガラスのハートを持っておるところでございます。大変遺憾でございます。

ブログは感情のメモ帳としても使っております。よく加筆修正します。自分でも困るほどの「皮肉屋」で「天邪鬼」。つまり「曲者」です。

2011年より声劇ギルド「ZeroKelvin」主催しております。
声でのドラマを通して様々な表現方法を模索しています。
生放送などもニコニコ動画でしておりますので、ご興味のある方はぜひこちらへ。
http://com.nicovideo.jp/community/co2011708

自己プロファイリング:
かに座の性質を大きく受け継いでいるせいか基本は「防御型」人間。自己犠牲型。他人の役に立つことに最も生きがいを覚える。進む時は必ず後退時条件、及び補給線を確保する。ゆえに博打を打つことはまずない。占星術では2つの星の影響を強く受けている。芸術、特に文筆系分野に関する影響が強い。冗談か本気かわからない発言多し。気弱ゆえに大言壮語多し。不安の裏返し。広言して自らを追い詰めてやるタイプ。

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