ちょうどよくまたテレビで見てしまったので、せっかくの機会に書こうと思う。
芥川龍之介。彼は「或旧友への手紙」の中で出している。
よく引用されるが、ここでも載せよう。
「君は新聞の三面記事などに生活難とか、病苦とか、或は又精神的苦痛とか、いろいろの自殺の動機を発見するであらう。しかし僕の経験によれば、それは動機の全部ではない。のみならず大抵は動機に至る道程を示してゐるだけである。自殺者は大抵レニエの描いたやうに何の為に自殺するかを知らないであらう。それは我々の行為するやうに複雑な動機を含んでゐる。」
夏目漱石は精神的なものが強烈に響いて胃潰瘍等の病気を悪化させて死んだ。
特に太宰治が夏目漱石ではなく、芥川龍之介に強烈な興味を引かれたのは、彼が持っている「道化」の性質を太宰が「同類の嗅覚」として強烈に嗅いだからであろうと僕はずっと思っていた。
それは夏目ではいけなかった。
芥川でなければいけなかった。
もし太宰が本当に絶望しているのであれば、道化の中に自分を見出すまでもなく死へ一直線へ向かっていたはずではないか。
「ぼんやりした不安」とは何なのか。
死ぬ。そのための理由を探すならば過程しか見当たらぬ。
人の持つ悲しさ、不幸さ、理不尽さ、それらは全て個人のあり方よりも周囲の物言わぬ圧力のようなもので、生きていく限り付きまとう、しつこいべっとりとしたものなのだ。
特に日本人という性質。同調し群れて独自の閉鎖的な社会性を維持させようとするのだが、この村的性質が陰湿なところへいくと大変ねちねちとしており、排他的な同調圧力となって攻め寄せてくる。
これが肌の色が違うもの同士の国なら、また事情は大きく違ったかもしれない。
作家は生活していくために金が必要になる。
これからどうなるのか本人にもわからない。食えていけるのか、なんて生活のことだって気にしないと言っても心の奥底に沈む。それよりもなによりも「お金が入らない=自分の作品が人に通じない」という恐怖感さえ覚えてしまう。
とにかく列挙すれば色々あり、その様々な理由が理性的なもので閉じ込められ、やがては深層に沈み本人さえもわからないぼんやりしたものになる。
人間は、考えてはいけない領域がある。
それは人そのものが持つ弱い心そのもので、それは例外なく誰もが持っているものだが、自分を棚に挙げて他人を責めたり、自分がやりもしていないことをさも知っているかのように他人に講釈をたれたり、気に入らないことを愚痴として散々言ったり、人を妬んだり、恨んだり、お金を少し持っていると相手をそしり、今度はお金を持ち出すと持っていないものを見下し、比べれば劣等感か優越感しか持たず、個人は様々な価値観に揺り動かされ評価される恐怖に脅え社会的価値や人間的価値を見出そうとする。
さて、人の心の奥には暗いものがある。
底の見えない穴のようなものだ。
策士は策に溺れ、知者は知に溺れ、作家は文字に溺れ、人は人に溺れていく。
負の部分だけを考えていては、いずれは絞首台に上がる階段を一歩ずつ踏んでいくようで、いずれは死んでしまう。
芥川は二年だそうだ。ずっとその不安のことを考えていたらしい。
心の暗闇に揺れる、ゆらゆらとした緑色の炎を見つめ続けてしまったのだろう。
人間の欲望や客観的視野の欠如から来る様々な思い込みに対して一個人は対抗のしようがない。
とにかく考えれば考えるほど浅ましさを感じるし、別にそのような人間だけではないとわかってはいるけれど、自分もそれを包み隠していることを考えれば、所詮はうわべだけなのかもしれないとも思えてくる。
目に見えなければ「本性」というものがあるかもしれない、いやあるに違いないと思ってしまうのが因果なところで、自らを浄化できずにどんどんドツボにはまっていってしまう。
この心の奥底の暗闇はなんなのか、元から抱えているのか、それとも後天的にできるのか。私の場合は思春期と、囲まれやすいものというのがあるのだけれど。
でも確かにある。
だから人は考えてはいけないことがある。
私の場合は「人は人」と割り切ることにした。
それでいいと思う。
自分の人生は全て自分のものであって他人のものではないのだから、当然自分で何とかできる部分を懸命にやっていくだけだ。
それだけのシンプルなことなのだ、と。
暗いこともよく考えるし、性分なのか、どうしても目を逸らせなくなる時があるから、その時はどっぷりと浸かるが、自分の人生が段階的に希望を持てる方向へ向かえるように、自らの中に手段を増やしておくことが、生きるために肝心なのだとわかった今、ただそれに集中すればいいだけなのだ。
掘れば掘るほど暗くなる。
その暗い穴にこもり続けてしまうと人は死ぬことを考え出したり光を疎みだしたりするようになる。
ましてやこの先どうなるかわからない社会。
不安とストレスが取れることはないだろうし、誰もが芥川とは違った「ぼんやりした不安」を抱えて生きているだろうが、堕落に身を任せないでいたら、わりと人生なんとかなる。
ちなみにここで言う「堕落」とは、自分の頭で一切考えず、何かの奴隷になることを意味している。
思考の奴隷、会社の奴隷、自分の奴隷、なんでもよい。
少ない時間で知らない世界を知るには読書が一番よいですよ。
捨てる書もないのなら、街から戻ってくるべきだ。
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