バクン、バクン、バクン、バクン、バクン、バクン。
心不全でも起こるかと思うほど早かった。
お腹の中に居た時から娘の心臓の音は耳が震えるほど波打っていた。
バック、バック、バック、バック、バック、バック、バック。
寝ている娘の胸に静かに耳を当て音を聞いた。
8か月が経ち、遅くはなってきたもののまだ早い。
深夜嫁の胸に静かに耳を当てて音を聞く。
バクッ、バクッ、バクッ、バクッ、バクッ、バクッ。
遅い。
これが普通の人間の心臓の音。
生きている時にしか聞こえない、生きている証拠の音だ。
生きようとする鼓動はいつも激しいのかもしれない。
心臓は情熱を持ち前へ進もうとする。
美しき姿だ。
体の中で海流が起こりどんどん生命を育んでいるのだろう。
運命はわからないが、いずれ娘より早く心臓の音は遅くなる。
彼女の胸は生きようとしている。
死にゆくものを前にして高く波打とうとしている。
美しい姿だ。
娘が最初に覚えた言葉は自分の名前だった。
鳴き声で自分の名前を連呼する。
そして2か月近く経ち、口癖のように自分の名前を言うようになった。
一文字欠けても言っている。
健気でかわいい。
よく静かだと褒められる。
よほどのことがないと人前でぐずったり泣き叫んだりしない。
褒められるのがわかっているのか、褒められすぎると後でご機嫌になる。
面白い子だ。
この子は見知らぬ人からかわいいと必ず褒められる。
生きているだけで素晴らしいのだ。
今日なんて「お人形さんみたい。本当に人間?」とまで言われたほどだ。
眩しいほどだ。
羨ましいほどだ。
ちゃんと大事にできるか怖くなるほどだ。
こんな父親ですまないと謝りたいほどだ。
いつか話ができるようになったら、沢山のことをお話したいけれど、退屈ではないか心配になるほどだ。
私はいつも自分の事しか言えないから、それでもなるべく沢山の話を聞きたいと思っている。
心臓が遅くなりやがて止まってしまうまで。
疲れてしまうようになってしまった。
流行病のせいなのか、年のせいなのかもうわからなくなってしまった。
だけれどお話をしたい。
それまでに面白いお話を用意しながら。
[0回]
PR
http://asakaze.blog.shinobi.jp/%E6%97%A5%E8%A8%98/%E5%BF%83%E8%87%93%E3%81%AE%E9%9F%B3%E3%81%AF%E9%81%85%E3%81%8F%E3%81%AA%E3%82%8B心臓の音は遅くなる