墓参りが終わると夏の風は影を潜めていた。
日差しは夏のままだったが、肌に優しい冷たい風が夜には流れるようになった。
サヨリは少し出てきたお腹の肉をつまみながら「そんなことないよー。全然痩せてるってー。サヨリがデブだったらほぼほぼみんなデブになっちゃうんだから、やめてよねー」と言っていた友人を思い出しながら、横になっていた体をアイナに重ねた。
「暑いよー」と体をよじらせるアイナに「私ってそんなにむさ苦しい?」と冷たく聞くと「今日どうしたの? 様子おかしいよ」といつものように微笑をむけた。
いつもアイナは優しい。怒ったところを見たことがないし、正直本心は何を抱えているのかわからない。
それでも最初の理解者はアイナだったし、サヨリが男を愛せないことを受け入れてくれた。
黒い墓石は鏡のように晴天に浮かんだサヨリの肌を映しこんだ。
サヨリはその日、背中からアイナが優しく包み込んでくれる姿を墓石の中に陽炎のように見た。
手を伸ばそうとした時アイナの姿は消えていた。
ただ、もどかしい。
線香臭い部屋。若くして死んだサヨリの母が仏壇から同じく微笑んでいた。
アイナはスカートから伸びる足をうっすらと開き、窓から吹き付ける柔らかな風を受けていた。
少し汗ばみベトリとしているのを、サヨリは指で這うように確認していた。
「くすぐったいよ。サヨリ。ねえ、くすぐったいってば」
畳の上で足を泳がせるアイナの上に覆いかぶさったので少しだけ自由を束縛しているような気持ちを覚えた。
そのまま、すっと手を太股へと上げていくと余計に汗ばんだ肉の感触が手にへばりついてくる。
「サヨリ、私、怖いよ」
「え?」
二人の関係が進むことになのか、それともサヨリの存在が怖いのか、聞いてしまったら全てが壊れてしまいそうで口を閉ざしてしまう。
サヨリは母の生前の衝撃的な告白を思い出した。
「私ね、あなたが欲しかっただけなの。だからお父さんと、どう接していいか、いまだにわからない。感謝はしてるけど、私にとっては難しいことだから」
十三年前の当時、中学三年生だったサヨリには理解できない言葉たちだった。
アイナとは、危うく、成り立っている。
その危うさの正体もわからず無性に悲しくなってアイナの唇を噛むと母の香りが一瞬し、ぞっとした。
アイナの唇からは血が出ていたが微笑んだまま憂いを帯びた目で白い肌が近づき頬に唇の血を塗りつけた。
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