忍者ブログ

あさかぜさんは見た

リクエスト何かあれば「comment」に書いてください。「note」「Paboo」で小説作品読めます。

08/24

Mon

2015

真夜中の街路樹を傘にして走っていた。
 小清水には走る習慣などなかったが体調不良の検査結果を医者に「運動不足も影響していると充分考えられます」と言われてから、どのような悪天候でも走るよう心がけ一ヶ月が経っていた。
 まだ本降りにはなっていなかったが「いつ本格的に崩れてくるかわからないな」と小清水は思った。
 走るコースは決めていて、毎日同じコースを走っていた。
 その日は霧雨が熱くなりかけた顔にも降り注いでいて、自然のシャワーを浴び冷却材代わりにもなっていた。
 まだ日の照っている頃は人通りも多いが夜になると人の姿がまったく見えなくなる。また、メインの道路から一本逸れているため車通りも少ない。
 そこで小清水は途中で妙な影を見つけた。
 うずくまり、波打つように背中を震わせている女性らしき影だ。
 最初は酔客が家路の途中で嘔吐でも繰り返しているのかと考えたが、姿だけ見ると咽び泣いているようにも見える。
 通常の酔っ払いは支離滅裂で前後不覚な装いだが、それとも違う。
 具合が悪そうだ、介抱してやらなければ、と考えた小清水は一瞬周囲を見て誰もいないことを確認してから声をかけた。
「優しいんですね。私なんかに声をかけてくれて」
 女のしっとりとした声に謙遜しながらも小清水は鼻腔を思い切り開いて臭いを嗅いでいた。
 汗のせいか、少し生臭くも感じる。
 ただその臭いが、今薄暗い中でも街灯に照らされうっすら光るように映えるうなじの汗から香るものだと思うと小清水は興奮を覚えざるを得なかった。
 それも若い女だ。
 心配を装いながら体に手をかける。
 ぬめっとした感触が手に広がった。
 汗? いや、もっと粘り気のある汁。
 濡れたアスファルトにところどころ水溜りが出来つつある。
 木々の葉にたまっていた雫が少しずつ垂れて時折小清水の頬を打った。
「タ、タスケ、テ、ク、ク、クレ、マ、スカ?」
 ほとんど聞き取れないようなか細い声で女に話しかけられる。
 白い手がすっと首元に絡みつき、女の開けた胸元が瞳に飛び込んでくる。
 透き通りすぎている。
 葛餅のように透けて血管が見えている。
 これが若い女の肌か、と長年見てこなかった光景に妄想を膨らませ疑問を持たなかった。
 突然の女の口付けの後、ぬめりとした体に覆われ、男は少しずつ意識を失っていった。
 倒れた瞳を横に向けると、濡れて広がる水溜りの向こう側から無数のナメクジが向かってきていた。

拍手[0回]

PR

Comment

お名前
タイトル
E-MAIL
URL
コメント
パスワード

フリーエリア

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村

バーコード

プロフィール

HN:
あさかぜ(光野朝風)
年齢:
44
性別:
男性
誕生日:
1979/06/25
自己紹介:
ひかりのあさかぜ(光野朝風)と読みますが光野(こうや)とか朝風(=はやぶさ)でもよろしゅうございます。
めんどくさがりやの自称作家。落ち着きなく感情的でガラスのハートを持っておるところでございます。大変遺憾でございます。

ブログは感情のメモ帳としても使っております。よく加筆修正します。自分でも困るほどの「皮肉屋」で「天邪鬼」。つまり「曲者」です。

2011年より声劇ギルド「ZeroKelvin」主催しております。
声でのドラマを通して様々な表現方法を模索しています。
生放送などもニコニコ動画でしておりますので、ご興味のある方はぜひこちらへ。
http://com.nicovideo.jp/community/co2011708

自己プロファイリング:
かに座の性質を大きく受け継いでいるせいか基本は「防御型」人間。自己犠牲型。他人の役に立つことに最も生きがいを覚える。進む時は必ず後退時条件、及び補給線を確保する。ゆえに博打を打つことはまずない。占星術では2つの星の影響を強く受けている。芸術、特に文筆系分野に関する影響が強い。冗談か本気かわからない発言多し。気弱ゆえに大言壮語多し。不安の裏返し。広言して自らを追い詰めてやるタイプ。

最新コメント

(07/27)
(02/23)
(03/05)
(03/02)
(01/24)
(07/29)
(01/21)
(08/16)
(04/28)
(04/20)

ブログ内検索

カレンダー

03 2024/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30

忍者アド

Copyright © あさかぜさんは見た : All rights reserved

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]