皮膚が削れている。
左手の小指の付け根あたりだ。
昨日おいしいラーメン屋に友達と一緒に行って来た。
分類不可能、とろとろのスープで卵の黄身のようだが、卵は一切入っていない。
味噌でもない、塩でもない、しょうゆなのだろうが、しょうゆと言い切るにはさらさらしていない、かつおの香りがあり黄身を食べているかのようなコクのあるスープ。
トッピングはチャーシューとメンマとみじん切りにされたたまねぎ。
メニューもそのラーメンとライスだけ。
他のものは一切ない。
店員は30代の夫婦二人だけ。
店員の女性は必ず笑顔でいる。
男性はスープやどんぶりをぐっと力を入れて睨みつけるように、ラーメンを作る。
男の腕はたくましく、血管が浮き出ていて、麺の湯きりをする際には、何か噛みしめるかのように、深ザルを落とす。
落とした時、麺の水を振り切る。
男は麺を一心に見つめ、重たいものでも振るい落とし、振るい落としたものの重みを全身で感じ取っているかのように、数度深ザルを振って落とす。
トッピングは二人で息があうかのように、かわるがわる餅をつくかのように手際よくやる。
ぐっと力の入った両手でどんぶりを支え、「お待ちどうさまでした」と出来上がったラーメンをカウンターに差し出す。
ほとんどの客がスープを半分以上飲む。
お腹に余裕のある人なら一滴もスープを残さない。
男の作ったラーメンを余さず、最後の一滴までレンゲで掬い取る。
帰り際、行きつけのバーに寄った。
3年勤めたバーテンが辞めるため、2,500円で飲み放題だった。
300円ほど足りなくて、「今度でいいですよ」とおまけしてもらった。
数杯飲んで帰るつもりだったが、深酒をしてしまった。
自転車で帰りながら、飲みなれていない酒も飲んだことから、おぼつかなくふらふらしながら、壁に手を擦った。
立ち止まった時、気持ちが悪くなり、街灯もない薄暗い街路樹の下に嘔吐した。
「こんな飲み方…」
(いつまで俺は子供なんだ)
死んだほうがいいとさえ思った。
なんのために家に帰るのかもわからない。
酩酊して、世界は回っていた。
ほんの少し残った理性だけで、自転車を走らせる。
転ばないように。
倒れこむようにして眠る。
朝起きて手を確認すれば、皮膚が削れていた。
左手の小指の付け根あたりだ。
吐き気がして、水を流し込むようにして飲む。
笑えてくる。
いつまでたっても、大人のなりそこないでしかない。
昨日冷え込んでいた天気も、今日は晴れ上がりさんさんと太陽が降りそそいであたたかかった。
削れた皮膚を太陽が照らし、抉れて赤くなった部分を染めていた。
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