別に偉そうに堂々と題にするべきことでもないのですが、先月の22日の段階で落ちていたことに気がつかず、今日までもんもんとしながら過ごしていた。
落ちたのはこれ。
「傘をよこせ」
http://p.booklog.jp/book/34488「シュレーディンガーの猫」を題材に、人間の認識における多重構造をテーマに世界を観測する。
主人公の男はある日大きな地震に見舞われビルのガラス片が落ちてきたと思い必死に身をかがめる。
しかし起き上がってみると周囲の人間は何事もなく平然と歩いていた。
周囲の人間に効いてみると別になんでもないことを告げられ首をかしげながら帰るが、次の日目覚めると少しだけ妙な世界へと来ていたことに気がつく。
・・・という内容。
オール読物新人賞は「人情小説」を主に選んでくるらしいので、完全にお門違いだなと思いながらも送ってみたのだが、やっぱり落ちていた。
「人情小説」とは何かと言われれば、藤沢修平、池波正太郎、今月載っていた白石一文、審査員の山本一力、など人間の日常を通して心情がぐっと伝わってくる小説のことを言う。
特に仕草など些細な描写から自然とにじみ出てくるようなものが望ましいと思われる。
私みたいに「量子論」なんか持ち出したら落ちるに決まってる。
とりあえず、これを書き上げた時点で満足だったし、入り口にしか過ぎないので、落ちたとわかった途端公開した。
といっても、ここ一ヶ月ほど、嫌な不安感に襲われていて、苦しくて苦しくてたまらなかった。
どうしてこれほどの不安感や落ち着きのなさに見舞われているのか理解できずに酒で記憶を飛ばしていた。
それがここ数日前から凄く落ち着いている。
澄んだ湖を眺めているような気分だ。
少し毒気が落ちたのかなと思っている。
だいたい小説で新人賞を狙おうとする人のほとんどは、負の感情を練り上げているし、見向きもされない悔しさ、努力が報われたいとひたすら空回りする怒りと虚しさを抱えている。
それがだんだんと腐敗してくると、自分より腕のある作家を見下したり、悪く言ったり、周囲を恨んだり、自分の実力のなさを諦め切れなかったり、固執するあまりに豊かな言葉をなくし、さらに劣化したものを作り、苦しみの中で作った作品がさらに評価されずにダメスパイラルに落ちていくパターンがほとんどだろう。
今私の精神は落ち着いている。
前よりも非常に穏やかだ。
いつ崩れるかはわからないにしろ、今書けることを書く。
「出世したいなら、我欲を洗い流せ」ということだ。
人に対する憎しみ、恨み、悪態、そんなものを投げかけているうちは下の下、作家どころか人間としてもまともではない。
特に世間に出て行くために、様々な繋がりができる。
ある賞の佳作に引っかかった人の日記を読んでいると、様々な作家の団体や作家たちとの交流を広げていく様子が毎日に渡って更新されている。
つまり特殊な社交界に入らなければいけない人が、人を尊敬もできない見下す、まともに会話もできないとなると、多くの人間が本作りに関わるというのに論外も論外、そのまま部屋で篭っていたほうがいいよ、という話になる。
作り手は孤独だ。
だから孤独に押しつぶされそうになる。
自分が努力してゼロから作り上げたのだと言えるもので勝負する。
最初はそうかもしれない。
しかし世に出る、製本するためには、たくさんの人たちの力が絶対必要になる。
他の人の力を借りたくなければ、賞など送らずに自分で出版社を起こしてやればいい。
人の協力を仰ぐのなら、ちゃんと人に対する敬意を持つこと。
さもなければ自分一人でやる。
どちらかにしたほうがいいのです。
作品を作っていると、作るための努力を孤独に続けていると、世界には自分ひとりしかいないような錯覚を持ちます。
本当に、ここで一人死んだら誰も気がつかないとか、もし必死に頑張って他のものを犠牲にしていたのなら、自分ひとり死んでも社会の損失にはならないし、など本当に孤独でネガティブな感情になりますが、本を出したいのなら、本が世間に出て行く様子を思い浮かべるべきなのです。
まず出版社の人たちが関わり、製本関連の人たちが関わり、輸送、販売、読者と実に様々な人たちが関わってきます。
私たちが想像しているよりもはるかに多くの人たちが関わってくる。
そういう人たちに自分で作り上げた本を「どうかよろしく頼みます」と頼まなければ読み手まで届いていかない。
これが「文章を本という形にする」ということだと思うのです。
私もこのことをよく考えさせていただく。
何がきっかけで今このような穏やかな気持ちになっているのか、まったくわからないところが不思議だが、こう見えても落選したら本当に悔しい時期があった。
誰にも相手にされず相手を馬鹿にする気持ちが強いこともあった。
今はうまく力が抜けていて、心がほぐされている。
こういう時は待っていれば必ずよいものが降りてくる。
何かひとつのことが原因というわけではなく、ここまでやってきたひとつひとつのことが、穏やかな気持ちを招いているのだと思う。
若者たちよ、どうかあがいて、あがいて、あがきまくってください。
それは今しかできないことです。
そして最後には我欲が抜け落ちるといい。
[3回]
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