アリスさん『チャンピオン』の歌詞現在知っている中で「人の半生」を描いた詩の中では最高峰です。
当時は高度成長時代、日々拳闘し続けるようなサラリーマン戦士たちの心を強烈なボディーブローのように抉り、激しい共感を得て大ヒットしたというのですが、私は当然その頃は生まれてません。
よくモノマネなどで歌われるので知っていたのですが、改めて歌詞を見て、自分がモノカキの端くれとなり、この歌詞がどれだけ優れたものかがじわりじわりわかってきています。
何回でも繰り返したいのですが、これだけの文字数で人の半生や背景まで描くというのは、そう簡単なことではない。
汗に見えるものを「涙」と置き換えたり、わずかな震えを「老い」としたり、あしたのジョーを彷彿とした人もいたのではないだろうか。
テーマを捉える上で一番大事なのは「脱線しない視点」なのですが、動きの中に込められた感情を捉えていく第三者の視点に徹底することで、チャンピオンを見守っている人の気持ちも同時にありありと浮き出ています。
この歌詞は同時に見守るものと見守られるものの二人の感情を一気にこめているのですね。
詩の魅力は饒舌ではないからこそ語りえる世界観が一番なのであって、なんでもかんでも文章のようにべらべらとしゃべってしまうことではない。
正岡子規が提唱したような「写実性」が優れている作品には憧れを感じます。
何せ30歳でこの歌詞を書いているのだから、自分の中では目標となるといいますか、これ以上のものがなんとかできないだろうか、など様々な感情がわきあがってくるわけですな。
最近の歌詞や小説にも言えることなのですが、人間らしい「ゆらぎ」が薄かったり触れ幅が大きすぎたりします。
やたらと応援ソングが多かったり、小説で言えば作者の都合のいいように物事が動いていたりと、違和感覚える。
人間らしい「ゆらぎ」とは「制御できない感情」「出していなくともあふれ出てしまう想い」のことを言うのですが、それを強烈に見つめる視点を持ちえるのは芸術家にとって必須なのかなと思うわけです。
上辺だけの気持ちや言葉だけでは、やっぱりここまでの詩は、なかなか出来上がらないのではないかと痛感します。
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