先日、ある店に立ち寄ると、いつもいる店長がいない。
「あれ? 今日はお休みなの?」と聞くと、いつももう1人居た若い男性が「ああ、アイツ、これです」とクビの横で手を前方へと切る。
つまり、「クビになった」ってことだった。
特に悪い動きをしていたわけでもなく、店の売り上げだって外から見る分には困っているほど困窮はしていなかったはず。
だからこそ驚いてしまい、理由を聞こうとしたが店が忙しすぎて聞けるような雰囲気じゃなかったということと、それに店の外に出た人間は部外者だし恐らくクビになるようなことをしたのだからなのだろうけれど、それでも「アイツ」呼ばわりしたことに、少しだけ嫌な気分になりしつこく聞くことは止めた。
やはりお店は、そこにいる店員に客層が左右される。
以前のマスターも若いと言えば若かったが、さらに若く、タトゥーも多少ある。
多少きつめな眼差しと、引き締まった体。その人が今度マスターになったってことだ。
周囲を見るとちょっと出入りする客も変わったように感じた。
前はサラリーマン風の少し落ち着いた客が多かったように思えたが、いかにも飲み屋街に出入りしていそうな客が多く、自分としてはちょっと落ち着かない。
夜の雰囲気をまとった人っていうのは、やっぱり夜の街に出入りしていると昼間とは違う雰囲気がある。
夜の闇に紛れて自己主張をするような、昼のファッションとは違った外見になったり、仕草になったりするので、なんとなくわかる。
一杯でさっさと店を出て、もうここには来ることはないだろうなと店を後にして、もう一軒立ち寄った。
私とは一回り以上も年上のマスターだが、随分と気に入ってくれていて色々と話をしている。
閉店の時間になりワインを注いでくれ、2人でサシで飲みながら話をしている中で先ほどの店のマスターのことをふってみる。
「世の中ね、上の人に左右されるなんて当たり前の話じゃないですか。だって事業者の方が絶対強いんだもん。雇用者はいくら文句言ったって、社長とか上の人間にクビだって言われれば、それでおしまいだもん。その解雇された理由はわからないよ? でも上の人と合わないような事情があったからクビになったんでしょ? それがどんな理由にせよ、その組織の方針と合わなかったってことだし、合わせられなかったってことでしょ。上司と上手くやっていくだけの技術がなかったってことじゃないですか。それが不満だったら、自分でやれば? って話になるでしょ」
自分も最近団体を持って、人も増えてきたので色々とさじ加減考えることが多くなった。
確かに一理ある。
自分の場合どこかに所属して、自分を生かせる場所がないから、じゃあ自分で自分の場所を作ろうって思い、自分の団体を作りたがる癖がある。
今は横の繋がりが多いけれど、結局は最後大きな舞台に引き上げてくれるのは、自分よりもはるかに力を持った年上の人たちだったりすることがほとんどだ。
例えばクソ上司だった場合、ブラック企業だった場合、さっさと辞めちまって正解だと思うけれど、年上の人間たちと上手く付き合い、そして目上の人たちを上手くいなすような、そういう技術は処世術として絶対必須になってくる。
さもなければ妙な形で衝突するだけか、変に目をつけられて邪険にされるか、もしくは自分が鬱々と日々重苦しい気持ちを引きずっていくしかなくなってしまう。
自分も一つ思うところがある。
ちゃんとした大人っていうのは、ちゃんとした人間関係を築いている。
そしてちゃんとした人間関係を築いているからこそ、目上の大人に気に入られると、その大人を通して素晴らしい人たちと出会えるようになる。
これがやがて自分の大きな財産になっていく。
横の連携が強化されていっても、権力を持っている人には絶対に出会えない。
つまり、仲間は多くなっても、社会上の力は強化されることはない。
その必要性はないと感じる人もいるだろう。
しかし何かに翻弄されるだけの自分によしとしないのならば、自分の身を守るためにも処世術は身につけておいて損はないのだ。
価値観や主義主張のぶつかり合いもあり、どうしようもなくなるぐらい収集がつかなくなることは人生の中では自己を主張し続ける限り必ず起こることでしょう。
でもね、私は人間関係で一番大事なのは「相手の懐を察する」ってことが大事だと思うんです。
つまり相手の本心を見抜く。それにはじっくりと相手を観察しないといけない。
相手の事情を察することができれば、懐にすっと入ることもできるし、懐に入ったら「肝を抜く」こともできる。
いい意味で度肝を抜くことができれば、年上相手でも主導権を握ることはできる。
でも組織の中に入れば事情は違ってくるのかもしれない。
上司は上司。その場を仕切る上司によって翻弄される。人によって一長一短あって、上司の短所に対応しなければいけない。
そして人はだいたい短所に気がつかないものだから、どれだけ自分の短所をかばってくれているのかということも、あまり理解しないことが多い。
さらには上司の短所の責任が部下のせいにされることだってある。
そんな理不尽さの中で皆生きている。
自分だけが自由に好き勝手、さも正しいかのように言えるのは、ここだけ、このインターネット空間と、友達同士だけの酒の席などと場が限られている。
別に権力うんぬんかんぬん言わずとも上司とうまくやる処世術は絶対に身につけておかないといけない。
相手の自尊心の在り処を見抜ければ、少しは上手くやれるさ。
話は元に戻るけれど、クビになったマスターのことが気になってしょうがない。
またどこかで会いたいな。
だって、その組織では才能が生かされなかっただけで、まだ死んだわけじゃないからね。
生きていればチャンスはあるさ。
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