3月が始まり出すと南の方から桜が咲き北へ向かってくる。
北海道の札幌は4月の終わりから5月の初めまで桜が咲く。
日本人は桜を見ることが好きで宴会も桜が咲いている時にする。
花見の誘いもあったけれど、あいにく仕事でいけなかった。
とは言っても札幌に住んでいた頃は花見ができる公園が近くでピンク色の桜の花がバーベキューの煙で煙幕かというほど空気がくすぶり、その魅力を削いでいた。
私はアル中だから酒を飲むのは好きだけど、煙まみれなのは心が痛んだ。
私の住んでいる北広島という場所は札幌よりも少し寒く桜が咲くのが札幌の開花宣言より数日遅い。
庭に古い桜の樹があるが、咲くのが遅い。
周囲が咲き、散り始めてからようやく咲く。
咲くのも遅く、散るのも最後だ。
梅の木もあり、南の方は梅から咲き、次に桜が咲く。
北海道は梅も桜も同時に咲き、花びらの形もよく似ているため、よく桜と間違えていた。
古い梅の樹は随分長く頑張り去年は花も少なくなり怪しげだったが、ついに今年は咲かなかった。
完全に死んだのだろう。
それでも長く生きたのではないか。
自分が産まれる前から梅の樹はあったような記憶がある。
よく生き、そして死んだ。
5月3日。
1歳5か月を前にしてハイハイばかりしていた娘が手を持つと、よく歩いた。
銀河庭園という恵庭にある広い庭だ。
前は10歩あるいたよと嫁が動画で送ってくれていたが、10歩どころか随分長い距離を歩いた。
要領を掴んだのか、外を自力で歩こうとしていた。
疲れてへたり込み、ベビーカーに乗せようとしても嫌がり、自分で歩くことを選んだ。
しゃがみ込み、土を両手で拭くようにしていじっていて、何度かベビーカーに乗せようとして、何度目かの説得でようやく乗ってくれた。
夜も足がガクガクで頭から倒れるほどなのに立ち上がり歩こうとしていた。
努力家だ。
素晴らしい。
根性がある。
心打たれるものがあった。
2042グラムで小さく生まれたのに非常にタフだ。
困ることもある。
なかなか寝ない。
ギリギリまで起きてかまってくる。
寝相がダイナミックで非常に悪い。
縦横無尽に寝返りを打っている。
保育園では静かに寝ているらしいのに。
桜が散ると一区切りという感覚がある。
同じ時期に咲き同じ時期に散る。
日本は4月が年度初めで、会社や学校の新入りは4月からスタートを切る。
東京という地名は聞いたことがあるかもしれないが、この地域は4月1日前後に咲くため、本当の節目の象徴として桜が咲く。
桜もいつか死ぬ。
だいぶ老木だが庭の桜は毎年見事に咲く。
娘を見ていると不思議な気持ちになる。
自分は40歳を超え、生きてきたよりも生きられる時間の方が短くなってきている。
そして娘は親や周囲の色んなものを吸収して育っていっている。
成人が育つというよりもはるかに様々な可能性を持って生きている。
通り過ぎるだけで「かわいい」と他人から言われるし、人生得して産まれてきている。
娘が産まれてきた時から思っていたけれど、他の親より自分は子供と接する時間が短い。
アコーディオン奏者のピアソラの音楽に合わせて0歳から揺らして寝かしつけていたのが功を奏したのかリズム感覚は保育園の先生も絶賛するほどだ。
桜の花の命は短いが、娘の華は長く咲いているように教えていきたい。
まるで魂を伝えるようだと思った。
人間は花のように咲いては散る。
そんな概念が日本人の心には染みついているのではないかと感じた。
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