朝の光に滲んだカーテンが揺れる。
窓を開けていた。
反対側の部屋の窓も開いているだろうから、彼女がトイレに行くためにリビングのドアを開けた際に、風がドアの風圧で流れてきたのだろう。
僕と彼女は別々の部屋で過ごしていて、彼女は僕が深夜まで起きていて作業したり、部屋をうろうろしたりすることに対し神経質に苛立つ事があった。
彼女と同棲しだして三年になる。最初は一緒に寝ていたのに、二年目に別々の部屋になり、僕は僕自身の感情を全て抑えなくてはならなくなり、そしてネットで知り合った女性とメッセンジャーで、こっそり電話をしながら本能的な欲求を満たしたりすることもあった。
「最近、冷たくなったよね」
同棲して一年が過ぎたあたりに突然言われた言葉だったけれど、僕にとっては青天の霹靂に近かった。
というのも、僕の活動そのものは彼女に付き合う前から散々伝えてきたし見せてきたし、その時僕の彼女への愛情そのものを根底から疑われるようなことは一切してこなかったし、彼女は僕の活動を認めてくれたものばかりだと思っていたら、結局は自分が大事にされること最優先の発言に思えたし、まさか彼女がそんな自己本位な発言を同棲一年もしてから言い出すとは思ってもみなかったからだ。
僕は僕のしたいことに専念していて、きっとそれは、もっと多くの人のためになるはずだと信じて活動を続けているというのに、今更「私に構え」というように、暗にメッセージを送られても僕は困る。
崇高な事をしているという傲慢さはないが、僕にしかできない使命感や僕だけが伝えられる重大なメッセージがあるからこそ、僕は諦めずに続けてきたし、続けてこれたし、当然応援もされてきた。
僕は彼女の行動が不可解でならなかった。僕の邪魔をしようとするのか。さもなければ、我欲が生まれてきて、もっと大きなものを見つめようとする気持ちすら見失って利己心が肥大化してしまったのか。
僕にとってはまったく不可解だった。
さらに不可解だったのは、懸命に料理を作って帰りを待っていたり、いちいち帰りの時間を気にかけたり、二人の間の記念日をいちいち気にしたりと、妙に関係のないことにこだわりだしてきたことだった。
「いつ帰るの?」
「もうすぐお休み取れる?」
「今度一緒にここへ行きたい!」
僕の活動は不定期で人との繋がりも重要だから、一般的なサラリーマンのように時間調整がしづらし、いちいち彼女のわがままに付き合う道理もなかった。
理解とはなんだろう。僕は彼女のことを理解していたつもりだ。でもまるでこんな行為は裏切りに近いじゃないか。なぜなら、僕の活動を理解していながら阻害するのだから。
何故。何故。何故。何故。
僕は懸命に今の忙しい予定の中でも愛しているではないか。
精一杯愛しているのに、何がおかしくなって、彼女はこうも私の行動をいちいち阻害するようになったのか。
わからない。気でもふれたか。もしくは彼女が何か隠しているのか。
一人、脳内を考え事がぐるぐる回る。光の微粒子は部屋に満ちてきている。
朝の光に滲んだカーテンが揺れている。
僕は何故か彼女のことを眠れずに考えようとしている。
三年目にして始めてのことだった。
風はもう流れてはいないが、新たな光がカーテンを染めていた。
それを僕は心底眩しいと感じ、目を背けた。
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