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あさかぜさんは見た

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05/12

Tue

2015

オムレツはフライパンの技術、いわば火の扱い方を見るには一番いい料理なんだと彼が言っていた。
 火を入れすぎると食べる頃には卵がカチカチになっているし、かといって固まらぬ頃には巻けない。
 巻き方も人それぞれあるが、基本はフライパンを奥側へと傾けて奥の淵のところを利用し弱い力加減でフライパンを返して巻いていくか、和食の料理人は出汁巻き卵を手前に返しながら箸で巻く要領でやるが、いずれも速さと的確さが求められる。
 彼は技術者で料理人ではなかったが、何かを作っている時はいつも真剣で、自分で批評を繰り返していた。
 私は形が悪くても食べられれば文句は言わない。
 だけど彼は私の料理にこそ文句は言わないまでも、自分の作るものに関しては全ていまいちだと言っていた。
「そんなことないよ。綺麗だし、おいしいよ」と本心から言っても、彼は納得せず料理を通して別の何かを見ているようだった。
 正直彼の悩みの正体がわからず、言葉のかけ方もわからなくなっていた。
 彼との間に子供はいない。私は子供が好きだから彼との間に何人か欲しかったけれど、彼は「子供を見ると自分が体験したことや不完全さを押し付けてしまいそうで怖い」と言って、いつも消極的な姿勢を見せた。
 彼は私より五歳年上で、私は三十代後半に今年なる。
 一子もいない状況に妊娠率のデータを見るに焦りを感じ始めていた。かといって彼に子供を作ろうとしないことで責めるわけにはいかない。
 以前に軽く「そんなに悩むことないよ。気楽にすればいいじゃない」と言ったら「じゃあ気楽になれば道は開けるのか。僕はこの道でどうにかしたいんだ」と逆に怒られたことがあった。
 仕事のことはあまり聞けないし、聞いたところで何もできないから聞けない。だから詳しくは知らない。
 それでもオムライスのように何か包めるものは考えられないのだろうか。火加減や塩梅なんて言葉があるくらいだから、なんだってバランスが必要なのに私たちは理解しあえないところでギクシャクしあう。
 オムレツの最高の状態は開いた時に半熟状態でふわっとしているのがいい。
 でも美味しいよね、よかったよね、と笑いあえる方が最高の状態じゃなくても幸せだ。
 私にとっては彼がいるだけで最高の旨味調味料を加えられたのと同じだ。
 だから、今度から無視されても伝え続けようと思っている。
 形が悪くても栄養として摂取できるし、それで生きていける、と。

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プロフィール

HN:
あさかぜ(光野朝風)
年齢:
44
性別:
男性
誕生日:
1979/06/25
自己紹介:
ひかりのあさかぜ(光野朝風)と読みますが光野(こうや)とか朝風(=はやぶさ)でもよろしゅうございます。
めんどくさがりやの自称作家。落ち着きなく感情的でガラスのハートを持っておるところでございます。大変遺憾でございます。

ブログは感情のメモ帳としても使っております。よく加筆修正します。自分でも困るほどの「皮肉屋」で「天邪鬼」。つまり「曲者」です。

2011年より声劇ギルド「ZeroKelvin」主催しております。
声でのドラマを通して様々な表現方法を模索しています。
生放送などもニコニコ動画でしておりますので、ご興味のある方はぜひこちらへ。
http://com.nicovideo.jp/community/co2011708

自己プロファイリング:
かに座の性質を大きく受け継いでいるせいか基本は「防御型」人間。自己犠牲型。他人の役に立つことに最も生きがいを覚える。進む時は必ず後退時条件、及び補給線を確保する。ゆえに博打を打つことはまずない。占星術では2つの星の影響を強く受けている。芸術、特に文筆系分野に関する影響が強い。冗談か本気かわからない発言多し。気弱ゆえに大言壮語多し。不安の裏返し。広言して自らを追い詰めてやるタイプ。

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