日本全国に咲くソメイヨシノは全てクローンのため全国一斉に咲くのだとお昼のワイドショーで紹介していた。
新入生の高坂は定時制の高校から進学したため、知り合いがおらず不安があった。
ちょうど構内掲示板に新入生歓迎会を兼ねて大学主催の花見が開催されると書いてあったので、思い切って参加することにした。
四月も半ば、今年は例年よりも気温が高く一週間も早く桜が咲いており、もはやほとんど散っている状態。しかも花見前日に激しい雨が降り、快晴と言えど地面はぬかるんでいた。
それでも花見客には関係ないらしく、バーベキューの煙はあたり一面を覆い、酔ってはしゃぐ人間は数知れない。
高坂は泥で汚れた新しいスニーカーを見て、酷く気分が落ち込んだ。花見会場が近場なため少し地面が乾くだろうことを見越しワイドショーを見てから来たが、大差はなかった。
会費の三千円を払い、飲み放題のメニューを見渡す。未成年は飲酒ご法度だが、誰も自分を知らないだろうと自棄に近い暴挙に出て日本酒を並々紙コップに入れてもらった。
残り少ない桜の花びらが風と共に舞い、紙コップの中へと落ちて日本酒を彩った。
その時高坂の目に映った。
食べかすを狙い翼を広げ舞い降りる鴉。
午前中から飲んでいたのか三人で肩を組みながら大声を上げている男子学生たち。
社会人数人でブルーシートの上で飲んでいて、横の若い女性に話しかけている赤ら顔の三十代前半くらいの男性と体を縮こまらせながら酒の入った紙コップを両手で持ってやや上目遣いに周囲を見ている新入社員らしき女性。
汚い紺色のジャンパーとジャージを着て錆びたママチャリをこいでいる無精ひげで白髪交じりの男性。
炭の上で焦げ始めモクモクと煙を上げている肉。
二人で乾杯しながらピースをしている若い女性たちを撮っている友達の女性。二人の背後に忍び寄る男性。
高坂は父親の都合で転校を何度か繰り返したが、各地の桜の下で同じ光景を見てきた。
「クローンのようだ」
冷めた感情が襲うと、すっと目の前の景色が遠くなるようだった。そのまま手が届かなくなってしまいそうな恐れを抱くと、しがみつくようにして手に持っていた日本酒を一気に煽った。
「お、新入生かな? いい飲みっぷりだね。何学部?」
酒臭い先輩が慣れ慣れしく肩を組んでくる。
高坂はくらりと眩暈を感じ、汚れたスニーカーで落ちたばかりの綺麗な桜の花びらを踏み潰した。
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