スーパーにいけば当然のように安く買える。
おでんの中には必ずといっていいほど入っている。
ルパン三世の五右衛門の斬鉄剣で切れないぷるぷるのあやつ。
さて、このこんにゃく。糸山こんにゃくん。ふむ、これだけで芸名になる。深い意味はない。
チャーミングな名前とは裏腹に、こんにゃくのもととなる、こんにゃくいもはシュウ酸カルシウムという物質を多分に含んでいてそのまま食べたりすると口の中や肌がかぶれる。
また粉末が眼に入っても大変危険であり、素手で掴むことは厳禁である。サトイモ以上の惨事になる。
いわゆる、毒物。
とにかくシュウ酸カルシウムという存在がわからなくとも、誰かがそれを食べれば「これは食べられない」と苦しむ姿を見ることになるので、まず食べようとは思わないはずだ。
それなのになぜ、なぜ昔の人はこれを食べようと思ったのか。
そもそもあく抜きになんでわらの灰を混ぜようと思ったのか。
どうしてそれであくが抜けることを見つけられたのか。
混ぜないだろ。普通。灰混ぜたら食べないだろ普通。
しかし炭を食べる原住民がいて、その原住民が住んでいるジャングルの一部のサルは同じように炭を食べる珍しい習性があるとテレビでやっていたのを見たことがある。塩分補給のためらしい。
それはあまりの空腹に耐えかねて食べてみたのだろうか。
それにしても灰は食べようとは思わないだろう。
偶然混ざっちゃったのか、それとも混ぜてみたのかはわからない。
突然の山火事にこんにゃくいもが灰の中に埋まり、周囲は灰だらけ、どうしようお腹すいた、何も食うものない、掘ってみようか、まだ埋まってるかも、と奇跡的に掘り起こされて放置されたものが、「あれ?なにこれ?食えんじゃん」となったのかどうかはわからない。
こんにゃくいもは縄文時代頃に来日しおって、平安のころから食べられたのではという説があるらしい。
考えれば考えるほど「こんにゃくをどうして食べようと思ったのか」は謎である。
最初は「医薬用」として使われていたようだ。
渡ってきた当初どういう使われ方をされたかはわからないが、戦国春秋時代の頃には文献が残っているみたい。
織田信長時代の名医、曲直瀬(まなせ)道三(1505~94)の著書「宜禁本草」には、悪性のできもの、中風などに効能があると記されており…
株式会社若草食品「辛く寒にして毒あり、つき砕き、灰汁で煮て餅をつくり、五味で調味して食べれば、消渇に主効あり生は人の喉をさし血を出す。よう腫(悪性のできもの)、風毒(中風)に主効あり、腫上を摩しつづければ腸風治る」
こんにゃく雑学とある。
生は人の喉をさし血を出すって、やっぱり挑戦者たちの亡骸がこんにゃくいもの影にごろごろしているのね。
結構日本の昔懐かしい食べ物の中にはあく抜きの工程を何度もして、がっつりあくを抜かないと食べられないものがある。
山菜のワラビとかトチ餅のトチの実とか。
まさに先人たちの汗と努力と犠牲の結晶なのだ。
納豆だって最初誰がどう見ても「腐ってやがる!遅すぎたんだ!」と思うはず。
とりあえず毒味をしてみた第一号に敬意を表したい。そして「これは食えるんだって!まじで!」と言いふらした人の勇気にも敬意を表したい。
またこの納豆、現在では糸引き納豆のことを納豆と呼んでいるが、それがなかった時代は麹(こうじ)菌を使った塩辛納豆が主流だったらしい。
糸引き納豆はご存知のとおり納豆菌である。
日本では700年ごろに僧が伝えたそうですが、糸引き納豆の起源は不明なそうな。
どうやらこの後に出現したらしいということはわかっているけれど「いつ」なのかは不明。
まあ「食えんじゃん。これ」って気がついた人が徐々に増えていって一般化したのかもしれない。
日本の糸引き納豆は日本にしか見られない伝統的食べ物らしい。
納豆の歴史について(納豆学会)
その当時としては「ゲテモノ」扱いされていた糸引き納豆。
さすがにこれは死者は出ないだろうが「食ってます」というだけでドン引きされたに違いない。
こう考えていくと食文化とはちょっとした「命を懸けた戦い」でもあったことが予想できる。
きのこだって危ないものが多いにも関わらず、食べられるものと食べられないものを分別できるのは、数多くの犠牲があったからに他ならない。
「とりあえず、これ食えんのか?でもおいしそうな色しているし、香りもするし、迷うな。よし、食ってみようじゃないか!」
そんな自問自答を繰り返した無駄に空腹な勇者が何人も散っていったに違いないのだ。
そういう意味では我々の食卓にはほぼ間違いなく食べられるものが並べられる。
変な料理オンチの手で無残な残骸とされない限りは食べてもお腹を壊すことはない。
「こんにゃくいもで散っていったものたちよ…君たちの死は無駄にはしない…おやじ!こんにゃくもうふたつ!」
と、おでん屋でロマンに浸りながら注文するのもよいかもしれない。
結局謎は解明されないままだったという。
[2回]
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