多くの人間と衝突を避け、その人たちに気に入られるにはどうすればよいのかと考えるあまり、小さなものに成り下がりつつあった。
私はよくそのことを円にたとえて考える。
個人は見ている範囲がある。
その見ている範囲や感性や常識的感覚を円でくくるとしたら、個々人の集合たる集団がくくっている円の重なっている部分、たとえば百人いてその百人の円がかぶさっている部分は相当狭い。
気に入られるとは、その円の重なった一点を突く行為に等しいが、私の感性そのものまでそこに合わせる必要性などまったくなかった。
様々な中傷や罵倒や否定があるだろう。
私はどうにもその手の人間に出くわすことが多い。
高校生あたりの日記を見つけたが、相当棘があってナイフに触れるみたいで落ち着かない。
直感的に気に触るし、腹が立つ人種。何も知らないくせに知ったような口ぶりで生意気。
自虐的でありながらもその逆の攻撃的なものも皮肉交じりに加えているから手に負えない子供だ。
自分の子供が自分だったら相当困っただろうな。
今は少し中和したつもりでいるが、本当にいやな子供だった。
先日「菊と刀」という本を読もうとして、失敗した。
というのは、私には深いトラウマがあって、典型的な日本人の悪い特性に出会うと、頭の中で様々な類似体験がフラッシュバック、脳内再生されて憎しみが湧き出る。
それは「人を殺してもいい」と衝動的に思うほどの強い劣等感と憎しみだ。
この呪いにも似た己の特性は長い時間を掛けて取り払っていかないといけないが、今は無理だ。
もう少し、いや、だいぶ成長して、今の自分を「幼かった」と思えるほどの大きな器を持たなければならない。
逆にこの本を読んで現代人と重ね合わせられるということは、日本人は精神的にはまったく成長していない側面があったと指摘できるかもしれないが。
ほらね、こういうところが、もう根付いているいやらしいアイデンティティー。
しかし、これもひとつの私の星が背負う宿命だったのかもしれない。
生まれるべくして生まれ、その命運をたどっている。
世界にはそういう人種がいる。
今なら傲慢に聞こえる。
今なら誰もが私を否定する。
当たり前だし、何よりも正しい感覚だろうが、自分の人生を振り返って、すべて必要だったように思えてならない。
あらゆる傷も、劣等感も、今は拭い去れないトラウマもフラッシュバックも、全部。
私は北海道民としてやっておかなければならないと考えていることがある。
ニッカウィスキー竹鶴さんのことと、北炭。
この二つは運命ならば必ずなせる。
もしなせなかったら、私は歴史上の役者ではなかったということだ。
次に作家として手が届くのならば、神戸新聞の力を借りて、阪神大震災、そしてそれを元にこれから起こる関東大震災のハザードシュミレーション、竹鶴さんのことが書けたならば、プリンセス・ミチコ。
ご無礼なことを承知で書かせていただくが、主人公になりえる人間は彼女しかありえないと小説家として思う。
現在の陛下は美智子様の存在抜きにはありえないだろうと考えるからだ。
これは小説家としての視点として、主人公となるべき人間は、何者が何が
突き動かしているのか、ということなのです。
陛下を表現するには誰を主人公にすれば、そして一般庶民に一番直接的に響く表現方法は何かを見据えるとすれば、美智子様以外にはありえない。
そして美智子様を私などの人間が理解するには、陛下、皇后を上回る教養が必要になる。
あらゆる人たちの協力が必要になるだろう。
私は妄想家です。
自分の打ちたてた妄想を純粋に追従する人間です。
私の深層心理には埋め尽くされた罵倒がたくさん沈んでいて、それをどうしようもなく処理できないおろかな人間だけれども、命ひとつかけて、軽い命かもしれないが、この命ひとつかけて、自分の感情や感性に純粋にしたがっている。
きっと私は最低の愚か者か、その逆かの二つに一つしかない。
これらのことを考えていても、私の実力が及ばないばかりに砕け散るかもしれない。
しかし、こういうのが本当の人生ってやつでしょう。
命ひとつかけて、だめだったら、何も叶わないでしょう。
保険掛けて、こっちがだめだったら、元に戻るというのは、作家として、命かけて、人生かけて、滅んでいった人たちや、成功した人たちを書くことなんて到底無理でしょう。
書くことは片手間でできても、「表現」は片手間ではできない。
自分の言葉ですが、こればかりは深く確信していることです。
不幸なのは親だ。
普通の一般社会へ馴染んでいき、生活の不安を一切抱えない、人生を歩んでいってほしいときっと望んでいたに違いない。
あらゆることが重なって、ここにいるけれど、親の気持ちだけを純粋に考えるならば、心底親不幸者だと思う。
そのことだけは一言だけ、一言だけ謝りたい。
その後は、もう振り向かない。
あらゆるものを犠牲にしてでも突き進む。
これが表現者の覚悟であり、懺悔でもある。
私はもう、引かない。
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