とある人から「知り合いが直木賞を受賞したから読んでみてくれ」とあり、購入した。
「ちょっと前はぶらぶらしててさ」とか、「ペンネームも山東省からきているんだよ」と言っていたのでどんなものかと読んでみると、久しぶりに泥くさいような小説だと感じた。
若さの力というか暴力の力というか、随所に出てくる爆発的な力が主人公を突き動かしていて、中上健次の小説のような一触即発のピリピリした雰囲気が漂うが、文章は所々ユーモアや恋愛があったりして、最初の方で殺された祖父から「ミステリー小説なのかな」と身構えた気持ちが、すっと融解していった。
小説は実体験を元にしていて随分と変わった人生を歩んでいるなとも感じたけれど、結局はルーツを探す人生であり、「血」というものへの抗いがたい強き引力であり、自分は何者なのだという誰もが人生では一度は考えるような疑問を突き詰めたものだ。
ただ「血に関わる因縁」が人の深い罪や業に関わってくるとなると誰しも躊躇するようなものだけれど、運命なのか、見知らぬ力に導かれているのか、色んなことがすっと最後の瞬間に繋がってくる。
持って生まれた因縁が不幸を作ったり、意図しなかった道を作ったり、自分もよく感じることだけど、まるでバラバラで何も繋がらないかのようなことが、すっと一まとめになって目の前のイベントを作り上げていることを感じることがある。
受賞直後に購入して読み終わってはいたのだけど、ずっと感想を書くのを止めていた。
何か小説から突き上がってくる圧倒的な感情や暴力性に心が引きずられているのがよくわかったからだった。
いわば、読者の心を揺り動かす力が物凄く強い。
台湾、中国本土、日本と行き来するわけだけど、この舞台が日本だったら、もっと違った、陰気臭いような小説になったのかもしれないけど、そこは中国の広さというか、主人公の突き抜けた直情さと人間らしい生身の感情が色んなものと純粋にぶつかって昔のスポーツマンガのような爽快な感じさえ漂うところが、読んだ後も残り続けた。
蒋介石が亡くなった直後に祖父が殺されているため、当時の台湾の事情なども書かれていて、余計に泥と血が香っているけれど、私小説っぽい要素もあるため純文学としても読めるけれど、展開が破天荒なのでエンターテイメント感溢れる直木賞受賞は納得の一冊になっておりますよ。
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