久しぶりに目からうろこの読書体験をしました。
行動経済学という分野なのだけど、経済学というとマクロとかミクロとかグラフがあって計算式があってとか、そういう小難しいものは一切ない。
というより、むしろ心理学に近い分野かもしれない。
今まで物凄くもやもやしていた基本的な人間活動に対する疑問に明確な答えをくれた。
例えば私など無知なものだから、ちょろっと政治的、思想的発言をしようものなら、たまに批判が来る。
批判が来るのだったらよいのだけど、ネットの場合ほぼ罵倒形式で来るのだから何故なのだろうと思っていたし社会が硬直化しがちな思想を何故会社勤めの人たちはいつまでも持ち続けるのだろうと、ずっと不思議に思っていた。
まず「期待」や「予測」がいわば現実を脚色するということだ。ニュースで予め情報や印象を叩き込まれるのもそうだし、これが会社になれば共有している環境や未来が一緒なのだから、まるで社会全体がそのシステムで動いているように感じる。優良企業と言われているところが、何故か「潰れない安泰な会社」と思い込むのもそうだ。
それは同じ料理を高級な皿に盛って食べてもらうのと、貧相な皿に盛るのとでは美味しさや反応が大きく違ってくるのと同じだ。同じ料理なのに。事前に説明を受けた料理も評価が変わっていく。
でも料理の例と会社の例が同じだと言われてもピンと来ない心理が働く。
そして人は一度自分が価値のあるものを所有した時に思想だろうが物だろうが実際の価値より高く見積もる心理傾向があるという。
もうこの2つの話でピンと来た。
つまり社会や個人で持っている価値観をなかなか崩せないのは、この2つの心理効果が大きく働いているからだと理解できた。
ここまで説明されてしまうと社会の変革は共有意識を育てる前に心理トリックに近いメカニズムを生み出さなければいけないのではないかと思っている。
実生活に役立つことも書いている。
「プレゼントは現金がいいか、物がいいか」
現金を渡してしまうことによって何が起こるのか。
人間は金銭的規範と社会規範を両立できないことにも驚いた。
ただ今新たなる疑問は「会社経営とかだったらどうするんだろう」と思った。
安い給料はうんざりだし、なるべくお金は欲しい。
そこはもう少し違う分野や行動経済学の本を読まないといけない。
この本「不合理」と書いているが、普通に説明されれば理性的かつ論理的思考で「そんなことはない。非論理的だ」とか「よく考えればわかることじゃないか」ということが書いてある。
「何故タダが人気があるのか。タダのコストとは」
10ドル分のタダの券と7ドル払う20ドルタダの券ではタダの券が7ドル支払う券よりも人気があったとか。
ここでよく考えれば7ドル払うほうが13ドル、つまり10ドルをタダで手に入れるよりお得だとわかるにもかかわらず、圧倒的に無料で手に入るほうが選ばれる。
指摘されてみれば確かに、と思うけど、「あるある! 確かにそうやってる!」という不思議な、不合理な心理傾向が随分と書いてある。
「支払い」は「苦痛」なのだそうだ。
せっかく得たもの、自分のもの(お金)をあげなきゃいけない。
人は物を買う時、心理的障害があることがわかる。
自分ではかなり理性的な人間だと思い込んでいる人でさえ、そんなことはない。人類皆仲間みたいな感じが爽快だ。
この本を読めば、少しは無意識に行っている日常の思い当たるあの行動を自制する事ができるかもしれない。
逆の目で見れば、私のように「ああ、なるほど。この人にはこんな心理メカニズムが働いてるんだ」という気持ちで何かを許せるようになるかもしれないし、社会活動に生かしていこうと思えるかもしれない。
この本を応用すれば人への接し方が変わる。
社会へのアプローチの仕方が変わる。
企業戦略にホイホイと乗らないようになる。
実にいい本だ。
文体も読みやすく、久しぶりに楽しい時間を過ごせた本だった。
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