「世界」は「認識」で。
「世界」は「自己完結」といつしか同じになって。
 霧がかった山間から朝日が昇る場所もあれば、人工物に切り取られたパッチワークのような景色の下から朝日は昇ります。
 太陽はいつも一緒だが、見る人間と、見る場所によって姿は変わってくる。
 彼女は夜が怖かった。
 夜一人で眠ることができない。
 夜暗闇の中で目をつむり続けることが出来ない。
「どうして?」
「太陽がずっと強く照らしているから」
 彼女の光は雲により霞むこともあれば、煌々と輝き続けることもある。
 その姿は冷たく美しく、そしてやわらかだった。
 絹を肌から滑り落としたように、憂いを持った瞳で見つめ続け、恥じらいを持った姿で素肌を精一杯の指先で隠したがる。
 その日は雲ひとつない晴れやかな夜だった。
 星々の歌声は夜空に点滅し、流星は歌を飾る。
 湖は月の姿をありのままに映し出し、時折風に揺れながら波紋を広げていく。
 美しいあなた。
 湖は汚れなき姿を映し出す。
 美醜苦楽悲喜。偽らぬそのままの姿こそ美しい。
 そこには誰の「世界」も介在しないのだから。
「あなたの愛するものは?」
「私は自ら輝けぬ影に等しい存在。そんな存在に愛するものなどあってはならぬのです」
 太陽によって輝く月。
「偽らぬ心の姿は既に映しております。私はあなたを見つめられぬ存在。雲により、御姿が遮られることの方が多い。それでも、御姿が見える度に、偽りなき姿を私の中に映し続けています」
 その湖はあまりにも穢れがないため、生き物が一切住めない湖でした。
 だからこそ、ありのままの姿を映し出すことができたのです。
 人はむしろ月の姿よりも昇りゆく朝日に希望を感じ、その姿に我が身を重ねようとします。
 熱く、何ものをも焼き尽くす炎を上げながら太陽は雄々しく叫び続け、その光を周囲の存在に届け続けます。
 舗装された街中の道の上で、男は微かに残った月を見上げます。
 自暴自棄になり、酒に溺れ、帰り道すらも忘れたいほどに我が身を失いながら。
 太陽が電波塔の脇から上がってきて、月を徐々に消していきます。
 湖と月との語らいを知りもせず、太陽の言葉に体を傾け、朝日の清々しさを体一杯に吸い込もうとしている。
 男は希望と、昨日までの辛い経験とを重ね合わせ、涙を流しながら悔しさを抑えこんでいます。
「世界」はどこかしこに存在しているにも関わらず、男は「世界」に閉じこもっていました。
 [1回]
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