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あさかぜさんは見た

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11/25

Mon

2024

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04/05

Mon

2010

ある街の一角にひっそりと小屋が建っている。
周囲は住宅街でこの区域に特に人が来る理由がないにもかかわらず、連日小屋には行列ができている。
並んでも小屋にその日のうちに全員入れるというわけではない。
その小屋はある人気占い師の小屋であった。
口コミで評判が「怖いほどよく当たる」と広がり今や近所では知らないものはいない。
わざわざ泊り込みで遠方から来るお客もいるほどだ。
いつからここで占いをしていたのか、占い師が何者かも、誰一人わからなかった。
占い中も外出する時もフードを深くかぶっているので誰一人顔を見た者はいない。
夜も深くなり、並んでいた人たちもようやく諦めてしんと静まり返った。
占い師は仕事が終わり晩御飯を食べていなかったので買い求めようと小屋を出た時、急に女にすがりつかれた。
夜中にも関わらずサングラスをしていて顔がよくわからなかったが、泣いているようだった。
「お願いします!どうか私を!占って!お願い!もうあなたしかいないんです!」
人気占い師だけに泣きつかれることはよくあることだったので、諭して今日は帰らそうと思った。
この手のタイプは諦めずにいつまでも嘆願してくることも考えられたがその時は無視をして一息つこうと思っていた。
「お願い!よく当たる占い師にあたしもう死ぬって言われたんです!どうか助けて!私の命を救って!」
女の懇願にはっとした占い師は「またこの人も妙な占いを信じてどうしようもなくなったのだろうか」と思った。
占いは吉凶を予測するものであって未来を決め付けるものではない。
占いにどっぷりとはまり込み、まるで占いが「避けられない未来を決めるもの」であると勘違いする人も中にはいるのだ。
占い師は適当に占って、いいことを言って帰そうかと考えた。そのほうが早く済むかもしれない。
「まずは中へ」
占い師は女を小屋の中へと入れた。
小屋の中は特に呪術めいた道具が置かれているわけでもなく、暖色系の照明が明るくない程度に照らし、ほんのりと香の香りがただよっていて女の気分を落ち着かせた。
女の話を聞くと占った結果を言われたはいいが、特に何かをすれば回避ができるなど助言もなく「時間の巡り会わせだ」の一言で追い出されたという。
「それはひどい話ですね」
占い師は女に同情的な言葉を向けて気持ちをなだめた。
「時間のめぐり合わせですか。そのようなひどい占い師にめぐり合わなければあなたもこうして不安な気持ちで私のところに訪れなくても済んだでしょうに。おかわいそうに」
女は我慢していたのか、せきを切ったように「どうすればいいんですか。結婚も間近なのに死ぬなんて嫌です。私幸せになりたいのに。あの占い師さえ変なこと言わなければ幸せになれたのに」と泣きじゃくった。
「ほう…ご結婚を…」
占い師は「もう死ぬ」と思い込んでいる女に「おめでとう」も言えない。
事情が事情なだけに占って回避方法を教えてあげようと考えた。
占いの方法は占星術とタロットを組み合わせた占い師が独自に開発した方法だった。
「これからシャッフルしますのでタロットの上に手を置いて気持ちを集中させてください」
占い師はタロットの上に女の手を乗せてカードを切り出した。
カードの並べ方はケルト十字法といって十枚を配置し、最終的な結果は右上の一枚に集約される。
カードを一枚一枚並べている時、あまりの不安からか女が勝手にしゃべりだす。
「私ようやく今の彼と一緒になれたんです。長い時間をかけてようやくめぐり合えたんです。彼のためにどんなことでもしました。私この幸せが消えるなんて耐えられない。これからも彼と一緒に過ごしたい。もう五年も耐えてきたんです」
五年。
占い師は「私が占いを始めたのもその時期なんですよ」と優しく言った。
占い中は集中しているので静かにして欲しいところだが、女の心中を考えるとそうもいかないだろうと諦めながら占いをすすめた。
「彼と会ったとき、絶対この人を私のものにするんだって。ずっとがんばってきたのに」
女が自分の話とともにすすり泣き、止めることなく続ける。
「彼、離婚してバツイチなんですけど、離婚してからずっと苦しい状況を支えあって乗り越えてきたんです。それでようやく生活も安定してきて、二人で新しい区切りをして、もっと幸せになろうねって…」
占い師のフードの奥がピクリと動いている。
十枚目の最終結果のカードを置く手が少し震えていることに女は気がつかない。
「あなたの…生年月日…教えていただけませんか?それと、顔の相も見たいのでサングラスを取って…」
カードをすべて置き終った占い師が女に聞く声が震えている。
女が生年月日を占い師に告げると「次はお顔を見させていただきますので」と占い師は言ったがフードがゆれているのが女でもわかった。
女がゆっくりとサングラスを取ると、占い師はガタリと音を立てて急に椅子から立ち上がった。
「あ、あの…?」
不安げに女は立ち上がった占い師を見つめる。
占い師はふらふらと壁際の棚まで歩いていき、震えているようだった。
「だ、大丈夫ですか?」
女が心配して聞くと、占い師は低くはっきりと聞こえる声で女へ聞いた。
「あなたが…今度結婚する人は――さん…ですね?」
「え?」
女は凍りついた。まさか知り合い?一体誰なのだろう。
「そうですけど、あなたは…?」
女の疑問に占い師は振り向き、一気に自分のフードをめくりあげた。
やや室内が暗いといっても顔ははっきりとわかるほどだ。
「え?」
女は占い師の顔を見てもきょとんとしている。
「あの、どこかでお会いしましたか?」
女の言葉に占い師は破裂したように声を荒げた。
「あんたが五年前に寝取った男の元嫁だよ!あんたのせいで私の人生は狂ったんだ!許せない!あんたをずっと殺そうと思ってた!あたしには何度も友人面して会っているはずなのに、あんた自分が寝取った男の女の顔さえも覚えていないくらいこの五年間のうのうと生きてきたのか!友達面してあたしをはめやがって!信じられないクズだよ!あんたさえいなければ…!うじ虫の豚女め!殺してやる!」
ひゃっ、と声が女の恐怖に硬直した顔からもれたと同時に、首筋にはペーパーナイフが深々と刺さっていた。
「あんた、自業自得だよ。運命には逆らえなかったね。これも時間の巡り会わせだね」
女はペーパーナイフを引き抜こうとして床をずるずると這い回り、ようやく引き抜くと首筋から勢いよく血が噴き出て、口からも血があふれてくる。
「あっ…あっ…」
言葉すらも出せずに体の潰された虫のようにか細く動く女を占い師は見下す。
「あたしが過ごしたこの五年間は屈辱だったよー?近所にはうわさが広まって会社すらも追われてさー。あんたさえいなければこうはならなかったよ。…あんたさえいなければ!」
語気を荒げ、ゆがみきった満面の笑みを浮かべて愉快そうな声で占い師は続ける。
「あたしは逃げたよ。あの街から。それからはホームレスみたいな暮らししなくちゃいけなくてさー。女のホームレス。わかるー?夜とかさ何度も知らない男に犯されてさー。それならっていっそのこと風俗で働こうってさ、趣味だった占いを女の子にやってたらよく当たるって評判になって、それでこの仕事始めたんだー。でもあんたのことはずっと忘れたことなかったよぉ?く…くくくくくっ…」
焦点の開ききった女の顔を足蹴にする。
「死んだ?死んだの?ホント?ホントに!?アタシ、ヨウヤクヤッタノ!?」
何度も何度も女の顔を蹴り、愉悦で声が高揚して引きつるほどだった。口からは興奮のあまりよだれが垂れ、目は長年望んでいた光景をしっかりと目に焼き付けようと大きく開いている。
占い師は先ほど並べたタロットカードの十番目の位置を開く。
塔の正位置。
崩壊を意味する塔のカードにぴったりの結末だと占い師は思った。
もう一度顔をジリジリと踏みにじる。女は首から血を広げるだけでもう反応しない。
徐々に高揚感が占い師の体を駆け巡る。
「く、くくくくく…キャハハ…キャーッハッハッハ!ザマーミロ!ゴミムシオンナメ!ザマーミロ!キャーハハハハッハ!」
怪鳥のような声を深夜の空に響かせながら占い師は外へ駆け出す。
そうだ、この愉快な気持ちのままあいつの死体の前で祝杯でもあげよう。
赤ワインでも買って飲み明かそう。
女がニタニタと笑みを浮かべながら路地の角を曲がった時、サーチライトにぱっと視界が白くなりガコンという音とタイヤの急ブレーキの音と体が捻じ曲がるような衝撃と、鼻の奥に強い血の臭いを感じた。
急に視界が変わったことによって何が起こったのか理解できないまま占い師は「テレビが地震で落ちちゃった。直さないと」と思った。
その次に占い師はアスファルトに広がる自分の血を見て「ああ、私、ひかれたんだ」とようやく事態を理解した。
塔の正位置。
あれは…私の…結果…?
だんだんと意識が薄れてくる。
あの女さえいなければよかったんだ。
あの女さえいなければ…。
そして最後に占い師は思い、絶命した。

――あ…もしかして、あの女を占っていなければ、私はこの時間に事故にあうこともなかった…?

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04/03

Sat

2010

恋は人を詩人にする

使い古された言葉だ。
だからと言って当事者にとってその言葉は陳腐になるどころかよりいっそう輝きだす。
はたから見たら、どんなに常軌を逸していても、恋に落ちたものを止める術はない。

恋をしている人がいる。
文章を書く人で、ブログも書いている。
去年の末からだから、結構進んでいるだろうと思って見てみたら、まるでジュリエットだった。
月に向かい想い人への言葉が詩のようにすらすらと出てくる。
とても作為に満ちた文章が到達できない次元の文章を自然と書いている。
それを読むと、自分の文章がいかに稚拙で、いかに低次元かを思い知らされる。
人生に一度でも、あれほど燃え盛るような激情で切なく甘い香りに満ちた文章を書いたであろうか、いや、ないだろう。

一秒でさえも時間の重みを感じ、自分の心の艶やかさを歌い、世界は星空を流れる流星のように輝きだし、きらめきに満ち溢れて華となる。
想い人の大きな存在が体中に満ち、触れたひとつひとつを噛み痕のように肌に残し、いつまでも愛しく感じる。
たとえ月の光にかなわなくとも、願いを背負った流星の、尾の先にまで満ち溢れた祈りは、どんなに飾り立てた言葉さえもかなわず、宝石と灰のような絶対的な差であり続けるだろう。
装飾することがいかにくだらなく見えてくるか。

それだけ人に全身全霊をかけられることを、心からうらやましく思う。
同時に、自分がその域にまで達していないことに、作家失格のレッテルを貼られても何一つ反論はできないだろう。

私も昔愛されたことがあった。
わけありの人に。
でもそんなことはどうでもよかった。
猛烈に、愛された。
今も生きていればきっと私のことを考えていると断言できる。
しかし私はその人と同じように、それ以上に愛していただろうか。
愛していたつもりだった。
時間が過ぎ去った今となっては、自信がない。
凄い人だった。当時精神的にも使い物にならなかった自分に献身的に尽くしてくれた。
私の作るものを愛してくれた。
私の作るものを名前を変えても見抜く人だった。
あんなに愛されたことはなかった。

文章を書くのも、その人の願いがこもっているから続けている。
それに信じてくれた人が正しかったことを証明するためにも続けている。
売れないから、食べていけないから。
そんな都合でやめてしまったら、自分も他人も裏切ることになる。
それは人生においてとても悲惨なことだから、もう繰り返したくない。

恋をするその人を、うらやましく思う。
自分を信じきっている。心から、疑いなく、純粋に確信している。
自分は恋をしている。自分がどんな状態にいようと、この気持ちだけは真実。
止められない衝動がありとあらゆる魂の泥をそぎ落として輝かせている。
素敵なことだと思う。

私も恋をするような情熱で人と向き合わないといけない。
それができなければ、作家になる資格すらもない。
ブログを書いているその人が次に私の元に訪れる時きっと別の目で私を見るようになるのかな。
未来には、いつも、輝かしいものが待っている。
そう思って生きていきたい。

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04/02

Fri

2010

スーパーにいけば当然のように安く買える。
おでんの中には必ずといっていいほど入っている。
ルパン三世の五右衛門の斬鉄剣で切れないぷるぷるのあやつ。

さて、このこんにゃく。糸山こんにゃくん。ふむ、これだけで芸名になる。深い意味はない。
チャーミングな名前とは裏腹に、こんにゃくのもととなる、こんにゃくいもはシュウ酸カルシウムという物質を多分に含んでいてそのまま食べたりすると口の中や肌がかぶれる。
また粉末が眼に入っても大変危険であり、素手で掴むことは厳禁である。サトイモ以上の惨事になる。
いわゆる、毒物。
とにかくシュウ酸カルシウムという存在がわからなくとも、誰かがそれを食べれば「これは食べられない」と苦しむ姿を見ることになるので、まず食べようとは思わないはずだ。
それなのになぜ、なぜ昔の人はこれを食べようと思ったのか。
そもそもあく抜きになんでわらの灰を混ぜようと思ったのか。
どうしてそれであくが抜けることを見つけられたのか。
混ぜないだろ。普通。灰混ぜたら食べないだろ普通。
しかし炭を食べる原住民がいて、その原住民が住んでいるジャングルの一部のサルは同じように炭を食べる珍しい習性があるとテレビでやっていたのを見たことがある。塩分補給のためらしい。
それはあまりの空腹に耐えかねて食べてみたのだろうか。
それにしても灰は食べようとは思わないだろう。
偶然混ざっちゃったのか、それとも混ぜてみたのかはわからない。
突然の山火事にこんにゃくいもが灰の中に埋まり、周囲は灰だらけ、どうしようお腹すいた、何も食うものない、掘ってみようか、まだ埋まってるかも、と奇跡的に掘り起こされて放置されたものが、「あれ?なにこれ?食えんじゃん」となったのかどうかはわからない。
こんにゃくいもは縄文時代頃に来日しおって、平安のころから食べられたのではという説があるらしい。
考えれば考えるほど「こんにゃくをどうして食べようと思ったのか」は謎である。
最初は「医薬用」として使われていたようだ。
渡ってきた当初どういう使われ方をされたかはわからないが、戦国春秋時代の頃には文献が残っているみたい。

織田信長時代の名医、曲直瀬(まなせ)道三(1505~94)の著書「宜禁本草」には、悪性のできもの、中風などに効能があると記されており…
株式会社若草食品
「辛く寒にして毒あり、つき砕き、灰汁で煮て餅をつくり、五味で調味して食べれば、消渇に主効あり生は人の喉をさし血を出す。よう腫(悪性のできもの)、風毒(中風)に主効あり、腫上を摩しつづければ腸風治る」
こんにゃく雑学
とある。
生は人の喉をさし血を出すって、やっぱり挑戦者たちの亡骸がこんにゃくいもの影にごろごろしているのね。


結構日本の昔懐かしい食べ物の中にはあく抜きの工程を何度もして、がっつりあくを抜かないと食べられないものがある。
山菜のワラビとかトチ餅のトチの実とか。
まさに先人たちの汗と努力と犠牲の結晶なのだ。


納豆だって最初誰がどう見ても「腐ってやがる!遅すぎたんだ!」と思うはず。
とりあえず毒味をしてみた第一号に敬意を表したい。そして「これは食えるんだって!まじで!」と言いふらした人の勇気にも敬意を表したい。
またこの納豆、現在では糸引き納豆のことを納豆と呼んでいるが、それがなかった時代は麹(こうじ)菌を使った塩辛納豆が主流だったらしい。
糸引き納豆はご存知のとおり納豆菌である。
日本では700年ごろに僧が伝えたそうですが、糸引き納豆の起源は不明なそうな。
どうやらこの後に出現したらしいということはわかっているけれど「いつ」なのかは不明。
まあ「食えんじゃん。これ」って気がついた人が徐々に増えていって一般化したのかもしれない。
日本の糸引き納豆は日本にしか見られない伝統的食べ物らしい。
納豆の歴史について(納豆学会)
その当時としては「ゲテモノ」扱いされていた糸引き納豆。
さすがにこれは死者は出ないだろうが「食ってます」というだけでドン引きされたに違いない。

こう考えていくと食文化とはちょっとした「命を懸けた戦い」でもあったことが予想できる。
きのこだって危ないものが多いにも関わらず、食べられるものと食べられないものを分別できるのは、数多くの犠牲があったからに他ならない。
「とりあえず、これ食えんのか?でもおいしそうな色しているし、香りもするし、迷うな。よし、食ってみようじゃないか!」
そんな自問自答を繰り返した無駄に空腹な勇者が何人も散っていったに違いないのだ。

そういう意味では我々の食卓にはほぼ間違いなく食べられるものが並べられる。
変な料理オンチの手で無残な残骸とされない限りは食べてもお腹を壊すことはない。

「こんにゃくいもで散っていったものたちよ…君たちの死は無駄にはしない…おやじ!こんにゃくもうふたつ!」
と、おでん屋でロマンに浸りながら注文するのもよいかもしれない。
結局謎は解明されないままだったという。

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03/28

Sun

2010

父と私は生涯仲良くはできませんでした。
いつ頃からか、ひどく私を目の敵にするようになり、自分の気に入らないことがあると私に向かって暴言を吐くようになりました。
それはもう一方的でこちらの言葉など聴く耳持たず余計に苛立つようなので次第に私は黙るようになりました。
一日最低一回。
それでも一日二回ほどの細かな野次でも一年間で七百三十回以上も聞いていることになります。
最初の二、三年間はひどく落ち込みました。
それでも前向きに生きていこうと気持ちが切り替わると次の二年ほどは嫌悪するようになりました。
次の一年ほど、私は完全に無視をしようと会わずに避けて生きるようになりました。
私が一人暮らしを始めればよかったのですが、母親が生来の心配性でなかなか離れることもできず、精神的に崩れることもしばしばありましたので、一緒に住んでいたのが不幸の始まりでした。
また雇用も不安定で職を転々とすることが多い中「なぜ正社員で働かないのか」という親の不安と疑問を解消することができなかったのも父の暴言を助長させた原因のひとつかもしれません。
少ない給料で久しぶりに飲みに出かけたくなり、次の日の休日を利用して夜中になろうとしている時間に出かけようとすると父が私の部屋の前を監視するようにうろうろしていました。
ばったり出くわすと、またどんな野次が飛んでくるかわからないのでこそこそとチャンスを見計らって出かけていきました。
飲みに出かけるといつも泥酔して帰ってきます。
どうしても溜め込んでいた苛立ちが噴出してくるのを打ち消すように安酒を流すように飲んでしまい帰りの路上で嘔吐するという最悪の飲み方です。
いつ帰ったかもわからず、どうやって家に帰ってきたかもわからず、血管が脈打つごとに頭の中で破裂するのではないかという二日酔いの痛みの中、かろうじて自分のベッドに寝ていることはわかりました。
意識がもうろうとしている中、乱暴に扉を開ける音がしました。
そんなことをするのは家の中では父以外にはありえません。
そして力を込めて侮蔑の言葉を吐いていった時、自分の中で何かが抜け落ちていったのです。
きっとあれは「良心の存在」だったに違いありません。
すっと、体の中で何かがすり抜けていくような感覚に見舞われ、その後は憎悪しか残りませんでした。
私の部屋は二階で父はいつも一階の居間にいるので、私は一階のキッチンから果物ナイフを取り出して父を正面から刺しました。
ぐっと胸の中に全部の体重を預けるように刺した感触をよく覚えています。
その後のことはよく覚えていません。
記憶が飛んでしまったのか、気がついた母に向かって「こうなる前にもっと話し合うべきだった。それができなくてこんなことになったのは残念だ」と言ったのを覚えています。
私は家の中で父と過ごすのはもううんざりでしたので、透明の袋に入れ中に薬品を満たして私の部屋の窓伝いにある屋根にそのまま放置しておきました。
日に日に肉が溶け、筋肉と見られる赤い組織から骨が見え始めます。
袋の中は水槽の中の濃い藻のような緑色の液体に変色していってました。
その様子にほくそ笑みながら部屋の中から石をぶつけると袋に穴が開き、開いたところから勢いよく中の液体が噴水のように飛び出していきました。
しかしその量が半端なく、袋の中に入っている液体量よりもはるかに多いと思われる量が勢いよく出ていきます。
すべて中の液体が出ると、ずるずると屋根を滑り庭に落ちていきましたので、そのまま野ざらしにしていました。
ある日気がつくと白骨化した父の上半身を庭の板に立てかけて置いているので何をしているのかとあわてて外に出て、それをばらばらにしたのですが、庭に散乱した骨を見て、改めて拾い集め裏庭の石に骨を打ちつけて粉々にし、土にばら撒いて足でならしておきました。
庭にはまだ足の骨などの太い骨が残っておりましたから、それは足をてこにして折ってばら撒いておきました。
「これで大丈夫だと」安心したのもつかの間「父が無断欠勤を続けていて会社から連絡が来ないだろうか」と「隠し通すことの不安感」が日に日に大きくなったのです。
そしてついに恐れていた日が来ました。
ドンドンドンともガンガンガンともバタンバタンバタンとも聞こえる、家の扉を強烈にたたく音が家の中に響き渡ったのです。
たたく音がどれほど暴力的な音に聞こえたかたとえようもありません。
その時「知らない」ですべて隠し通せばいいのだと思っていました。
私は何も知らない。
被害者は私だ。
殺したことに何一つ悔いはない。
人を罵倒し続けることがどれだけ心をめちゃくちゃにする暴力かわからないのだ。
おびえる、というよりも「不安」の方が大きく、私は一体これからどうなるのだろうと真っ白になる気持ちが支配しました。
「出て来い!いるのはわかってるんだぞ!」
「いつまでそこにいるつもりだ!」
「この扉を開けろ!」
何人かいるようでそれぞれ叫びの声色が違っていました。
嫌だ。私は絶対出ないぞ。
ここを出たってもうおしまいなんだ。
一生殺人者として日陰者だ。
そうだ。母はどこだ。
探してもどこにも見当たりません。
そうか、母がしゃべったんだな。
こんな私はもう見たくないか。
そうだよな。
息がぷくぷくと湧き出てくるように力なく「くっくっく」と笑っているのが自分でもわかりました。
「早く開けろ!頼む!」
頼むだって?
どうせ警察に突き出すつもりだ。
私はもうここでいい。
ここでいいんだ。
私は目を閉じ、耳をふさいで丸くなって寝転がりました。



「先生、様子はどうでしょうか?」
とある病院の一室のベッドに人工呼吸器に繋がれた一人の男の姿があった。
男はうつろな目で天井を見つめたまま動かない。
白衣を着た医師と見られる男の周囲には数名の中年男女が心配そうな面持ちで医師の言葉を待っている。
「市販されてない強い睡眠薬を大量に服薬したようです。命は取り留めましたが、反応が見られません。このまま植物状態になる可能性が高いです」
言葉を受けて中年の女性が一人泣き出した。
「だってこの前まで元気でいたんですよ!?それがどうしてこんなことになったんですか!」
医師はその叫びの答えを持ち合わせてはおらず、神妙な顔をしながら泣き出した男の母親を見つめた。
「とにかく、できる限りのことはしてみます」
そういい残して医師は部屋を出て行った。
「やっぱり、自殺なのかね?」
「自殺する理由なんかありませんよ。何か他の事情があったんでしょう」
「そうだよな。あれだけ幸せに育ててもらって自殺なんて考えられない」
父親や親戚たちがあれこれとしゃべりだす。
二人ほどはずっと言葉を失った状態だった。
ベッドの上の男はうつろに虚空を見つめたまま乾いた眼から涙を流した。
話が終わると親戚一同病室からそろりそろりと出て行く。
扉は閉じられ、植物状態の男だけが取り残された。

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03/28

Sun

2010

中国の技術力・日本の若者よ政治と勉学に関心を

中国の自動車メーカー、比亜迪汽車(BYDオート)が、金型大手オギハラ(群馬県太田市)の工場を買収することが27日明らかになった。

いわば完全な「技術流出」。
こういうことが次々と現実化していくと今度は技術力の低くなった我々が中国などの技術力の高い国の企業の元で安く働かされることになる。
たぶん10年以内には中国と日本の立場が逆転するのでは?
金属のフレームで作って「わが国もロボット開発に成功しました!」と写真つきで「ASIMO」と比べてみたら、中国のは配線がついていてすぐ後ろでリモコン操作していて笑ったという状況も逆転する可能性すら出てくる。
逆に日本人が笑われるばんだ。

中国は大学でもベンチャー企業を支援するシステムが充実しているらしい。
一方日本では支援を求めるにも「いつ結果が出るのか」「利益はどれほどでるのか」という質問が飛び交い、なかなか研究資金が集まらないという実態があることをテレビでやっていた。
「研究」なんだから、はっきり言えないに決まってるのにね。
研究さえも中国に比べて資金の提供が渋いのであれば、「技術大国」を名乗れるのもあと数年であろう。

また日本で起業するにも大変労力を必要とし、社会風潮として失敗しやすいことをあるブログであげていたのでご紹介。

どんだけマッチョじゃないと起業できないんだ、日本は
- My Life in MIT Sloan

不謹慎ながら笑ってしまったのは、見事に日本人の社会風潮を凝縮した内容になっていると感じたからだ。
内容をかいつまんで言うと
「発言小町というサイトにダミー投稿で、大学生で就職活動していたけど会社に入って働くのが馬鹿らしいと思い、この近所には老人も多いので自分で弁当屋を作って働こうかと思う。自分は作れないが料理のうまい犬の散歩仲間がいるのでその人に手伝ってもらおうかと思う」
という内容だが、全体的に「新しいアイディアを出す若者を明らかに応援しない」意見が目立っていた、ということだ。

ブログから抜粋させていただくが、

「たかが企業にも就職できない人が、起業して成功する訳がない」
「本当にそんな覚悟はあるのか?」
「起業するのはいい考えだと思うけど、すごく大変だよ?」
「逃げてる気持ちでは、起業は成功しません」

この手の意見が主を占め、「やればいいじゃないですか!自分のアイディアと若さをどんどん生かすべきです!失敗しても成功しても本にしちゃいましょう」なんて前向きな意見がまったくないというのが「保守的で頭の固い日本人らしい考え方」だなと思った。
こんなことではどんなことをやっても失敗することのほうが多くなるに決まっている。

私もアメリカに2ヶ月ほどだけだがいたことがあるので、観光とは違い日本の雰囲気とは明らかに違うことを肌で実感してきたし、異文化を持った人々と(アメリカ人じゃない移民が多かったので余計)何を大事にしなければいけないかというのがよくわかった。
それは「つべこべ言う前にやらなければいけない」という向上心だ。
私は英語があまりしゃべれないし、発音もヒアリングも苦手なので似たような人たちばかり集まっていたけれど、とにかく言葉のあまり通じないアメリカでなんとかやっていこう意気込みがあった。

「英語もしゃべれないし、働くなんてとても」というよりも、
「英語をしゃべれるようになって働いてこの国で暮らしていく」
という向上心に満ち溢れていたし、誰もその熱心さを馬鹿にはできない。
自分の国に戻るよりも、アメリカで仕事を探したほうがはるかにいいという事情を抱えているにしろ、互いに励ましあって競うように勉強していたのが印象的だった。
それは「アメリカで仕事をしようかどうかで入国を考える」よりも「入ってしまって覚悟を決めていく」という気持ちがはるかに大きいのではないだろうか。
外から見てあれこれと物を言う人間よりもよっぽど立派だと思う。

「経験者」は「経験」しなければ「経験者」にならない。
経験もさせようとしない風潮で「経験者」「独自のノウハウを持ったプロフェッショナル」は育たないし、育てられないのは当たり前の話なのだ。

新しいものに挑戦することが応援されない風潮というのは、本当に危機的な状況を徐々に招いていく。
失敗するもしないも本人しだいだというのに、「老婆心」が過ぎると思う。
また失敗したとしても、その「失敗のノウハウ」をまとめることによってより「成功」に近づいていく。
その「潜在的な競争力と成功力」も奪う日本人の保守的な考え方は国を滅ぼす元凶にもなりうる。

ブログでも書いてあるとおり、日本に圧倒的に少ないのは、
「新しいアイディアを支援するプロフェッショナルと投資家」
「ベンチャー起業家たちなどが集まって議論・意見交換しあう組織・集会」
「経験のないものに経験を与えることを促進する社会的に前向きな風潮」
だろう。

そして蛇足だが気になっているのが20代の投票率が相変わらず50%を切っているという現実だ。
君たち、政治に関心を持たず投票にも行かないということは「自分が何をされても文句は言えない状況」を作り出してしまうということだよ?
「生活とは関係ない」「政治のことはよくわからない」「現体制に不満だから行かない」などと言って放置しておくと、やがて自分たちがいきなり会社から解雇されても「法律で決まっていて文句が言えない」などの状況が自然と出来上がっていていたりする。
自分の明日のことには関係なくても、数年後の未来には大いに関係してくる。
あなたが投票に行かないことによって「自分たちに不利な法律」を作られても、もう時すでに遅し。
あなたは職を失い、数年間デモと抗議活動に時間を費やし生活費もままならないまま日雇い労働をし、外国人の上司の決定によって明日の運命が決められるという日が来ても、それは「社会のせい」ではない。
「あなたが日本国のことを真剣に考えなかったから」に他ならない。
きちんと日本の将来のことを考えよう。
「投票に行こう!」ってキャンペーンはあるけど「日本の若者の税率を半分以上アップしようと思うので投票しに来ないでください。邪魔なので」なんて天邪鬼なキャンペーンやったら効果的なんじゃないのか。
それぐらいインパクトのあることを言わないと興味を持たないのではないかと思う。

日本の若者たちよ。
きちんと「勉学」というものをしないと、他国に飲まれる。
あなたの上司は日本人でも、その上司を雇っている母体は実は外資系だということも珍しいことではなくなった。
「勉学をする」ということは「物を考える力を養う」ということだ。
機械のように「決められたマスの中に決められた答えを入れることができるようになる」ことではない。
学校の勉強を鵜呑みにするよりも、自分の中で「どうして?」の力を持ち、自分で「どうして?」を「追求していく」力が必要だ。

本当に賢い革命とは「大衆に気がつかれずに体制を固めてしまう」ことにある。
くれぐれも「騙され続ける馬鹿な大衆」に成り下がらないように、我々自身が自覚を持たなければいけない。

若者よ、大志を抱け!


追記:
これから自分でサイトを立ち上げ、作家(詩・小説・文化)活動を本格的に展開していこうかと思いますが200万円支援してくれる人いますか?って募集したら出てくるだろうか。
一年後この追記を読んでも「出世払い」はないので、気をつけてね(笑)

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プロフィール

HN:
あさかぜ(光野朝風)
年齢:
45
性別:
男性
誕生日:
1979/06/25
自己紹介:
ひかりのあさかぜ(光野朝風)と読みますが光野(こうや)とか朝風(=はやぶさ)でもよろしゅうございます。
めんどくさがりやの自称作家。落ち着きなく感情的でガラスのハートを持っておるところでございます。大変遺憾でございます。

ブログは感情のメモ帳としても使っております。よく加筆修正します。自分でも困るほどの「皮肉屋」で「天邪鬼」。つまり「曲者」です。

2011年より声劇ギルド「ZeroKelvin」主催しております。
声でのドラマを通して様々な表現方法を模索しています。
生放送などもニコニコ動画でしておりますので、ご興味のある方はぜひこちらへ。
http://com.nicovideo.jp/community/co2011708

自己プロファイリング:
かに座の性質を大きく受け継いでいるせいか基本は「防御型」人間。自己犠牲型。他人の役に立つことに最も生きがいを覚える。進む時は必ず後退時条件、及び補給線を確保する。ゆえに博打を打つことはまずない。占星術では2つの星の影響を強く受けている。芸術、特に文筆系分野に関する影響が強い。冗談か本気かわからない発言多し。気弱ゆえに大言壮語多し。不安の裏返し。広言して自らを追い詰めてやるタイプ。

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