伊賀焼の谷本洋さんの器を手にする機会があり、器を手にしながら考える。
どんな料理がいいのか。手に入れた器は近年「手軽に扱えるように」と谷本さんが本来の伊賀焼のコンセプトからずらして家庭用にと制作していたものの一つ。
陶芸とか陶器とかなると、ちょっと重いイメージがあるけれど、とても軽い。
谷本さんは全国を回っていて、何年かに一度、札幌の三越に来ることがあり、ちょっとした縁で知り合った。
器を手に入れたはいいが、やはり器を目の前にすると、下っ端調理師をやっていたし、本職は(自称)芸術家なので、面白くもなく美味しくもないものは作りたくない。
安易ながらお野菜をふんだんに使ってみた。
一枚目は油揚げと鶏むね肉と小松菜のたらこあえ。
液体塩こうじと根昆布出汁であえた。
二枚目は伊達で初めて見た「コジャク」という野菜。ゴマのような香りもあるし、春菊までいかないまでもちょっとした香りと苦みもあるし、「セリに似た」とネットではあったけれど、実際セリを単体で味わったこともなく、でも美味しいというぐらいしか説明できないやつと、からし菜を根昆布出汁とミツカン簡単酢と液体塩こうじを混ぜたものを薄めてハスカップの汁であえたもの。からし菜自体が紫の葉を持っていたので、ハスカップ抜きでも紫に染まっていた。
上に乗っているのはハスカップの実。
苫小牧産で酸味が強い。まるで淡い梅干しくらい。
実は2018年の胆振東部地震の中心地だった厚真町のハスカップは糖度が高く、よりあえ物への奥深い味わいを示してくれる。
僕は、この厚真町のハスカップをお勧めしたい。
野菜とあえても、まったく違和感がない。
食材としても大いに活躍できるし、ハスカップは大腸菌の繁殖を抑制する効果があるのだと、この前厚真町の報告会で偶然聞いた。
三枚目は少し花の咲いた菜の花を道の駅で見つけたので、食べ物としてはえぐみが出てくるものの、ビジュアル的に春だなと思い購入して、春雨と一緒に酢味噌生姜あえにしてみた。
酢味噌は事前に韃靼そばの実と厚真産の味噌をあえたものを使った。
味噌がとても素晴らしかった。塩っぽさや豆の主張を抑えながらも、かつ縁の下の力持ち以上の味わいを発揮する。淡く甘い。
ちなみに厚真町の「しゃべーる」という施設で味噌を売っている。
試してみてはくれまいか。
豆腐も美味しいが、当然日持ちはしない。
日持ちがする商品となれば、まず味噌だった。
他にも厚真町のお勧めは米があるが、プロの人に自信を持っておすすめしたい逸品だ。
本来の伊賀焼については、僕の手持ちの写真がないのでネットで検索して欲しい。
僕のような半端物の紹介で申し訳ないとは思うし、勝手な見解をこれから申し上げるが、僕は谷本さんが作る伊賀焼の神髄は「人為」と「天意」にあると考えている。
現代陶器を眺めていると「人為」を強く感じる。
我々は人工的なものの中に生きている。例えばビルであり、近代的な木造であり、決められたスペースを形どった鉄やらコンクリートやらといったものだ。
車の横幅がだいたい決まっている中で、駐車場の線が狭かったらイライラするのと同じような感覚だ。
都会に生きていれば目の前にアスファルトがある。
毎日排気ガスの香りを嗅いでいる。
何の塵なのか車が巻き上げた、明らかに体に悪そうな煙のようなものも吸っている。
建物は法律や人が決めた何がしの区画やらが決まっている。
都会に自然などない。
だからこそ、都会にあう(語弊があってもかまわないが)スタイリッシュで近代的な陶芸を持って「土」というものを示す。
つまり近代建築や近代生活にあう「陶芸」というものが一般的なものになっていると感じるところがある。
つまりは「人間美」なのだ。
だが伊賀焼に関しては、究極のアンチテーゼを示している。
「近代様式」や「現代陶芸」へのアンチテーゼだ。
作り手である当人には当然そんなつもりはないのは承知してはいるが、伊賀焼に関しては近代建築の中に置かれると、強烈な違和感しかない。
ゴツゴツしていて、まるで「大自然への哲学観」しか感じない。
その陶芸には渓谷があり、濁流があり、手の入れられていない青々としたむせかえるような緑があり、命が消えては生まれ、打ち寄せる水にもびくともせぬ上流の角張った岩があり、命の最後の使命を果たさんとする生命達があり、爽やかな、時には全てをなぎ倒さんとする風があり、そういう「実直な自然への問いと答え」が、そこには存在している。
だからこそ「哲学」なのだ。
現代陶芸が「人間美」なら、伊賀焼は「自然美」なのだ。
僕にはその器を扱うことができない。
使えないものは飾るだけになるから、僕はもしかしたら生涯手に入れられないかもしれない。
それでも「ちょっとカジュアルな」という感じの器を手に入れ、作者とも話をし、少しだけ知り合いの仲になり、器を使って料理を作るとなると畏まる。
迷いもあるし恐れもある。
どこにでも手に入るものながら、写真ではわからない北海道らしさが出ている食材を使っている。
韃靼そばという、寒冷地に強い品種のソバの実を二枚目以外のものには使用している。
二枚目はハスカップ。
新千歳空港で特にモリモトで扱っているのでお菓子のお土産として味わってみて欲しい。
ひとまずは、器を使っているというアピールも兼ねて、美味しい味わいにひと花以上のものを添えてくれた器を、これからも大事に扱いたい。
ありがとうございます。
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