思い返せば、20年以上も酒を飲み続けてきた。
そしてここ10年ほどだろうか、ウィスキー半分を一日で空けてしまうくらいの立派なアル中を務めあげてきたのだが病気以外で人生初めて断酒している。
いつ生まれてくるかわからないため、飲んでいては車運転できないためだ。
2週間以上は経ったが、やはりかなり辛い。
そもそも自分が泥酔していく理由はとにかく「現実を忘れるため」だった。
過去の色々なことを、じとっとした感覚、床を転がりまわりそうになる心の苦しみ、突然思い起こされる過去の思い出から逃れるため、とにかく現実を忘れるのだと手っ取り早い麻薬に手をつけていたのだ。
早めに死にたかった。
酒に溺れてこれ以上生きていくことを放棄したかった。
自殺する勇気もなく緩慢に死んでいこうとしていた。
そんな自分にも好きになってくれる人がいた。
そもそも当時人生において一番大事なものを捨てる覚悟で北海道へと渡ってきて、自分が借金で苦しんでいるところに「これで返して来い」と札束を置き、助手席でいつも飲んだくれている自分とのドライブも楽しんでくれた。
風呂上がりに全裸で「風のタマサブロー!」と高速でタマキンブラブラさせると大爆笑してくれるような人だ。
自分から与えられるものも沢山あるだろうとは感じていたが、何よりも自分が一番与えられていた。
「よく笑うようになった」
と菩提寺の住職の母親に言われた。
そういえば、毎日のように笑っている。
笑っていない日の方が少ないくらい一日一笑生活をしている。
人間は一番大事だと思っているものを天秤にかけて失うかもしれないリスクを背負って決断できない。
それができただけでも凄い人だと思っていた。
家族の事では悪い思い出がぶり返すから正直子供はいらないと思っていた。
自分のような人間は親になったら無意識に親と同じことをするのではないかと思っていたし、実際少し似ているところがあって怖かった。
そういう理由で子供を欲しがる妻を泣かせてしまったことも何度かあった。
人が怖い。
内心何を考えているかわからないし、次の瞬間には暴言を浴びせかけてくるのではないかとどこかで構えている。
子供であろうと同じだろうと思っている。
自分自身もどこか世間ずれしていて、普通には生きられないことは認識しているから、やっぱり人とは距離を置きたいという気持ちもどこかにある。
自分から見るといいところなんてあまりないようにも思えていたが、妻のおかげでそうでもないのかもと思えるようになってきた。
料理を褒めてくれて、自分がおちゃらけていると笑ってくれる。キツイ下ネタでも笑う。こんな人もう人生において現れないだろうと思っている。
今年、大雪が原因で飲食を離れることになり、別業種を探している間に授かった子になる。
12月に生まれる。
思えば不思議な人生だ。
ここ10年ほどはキッチン業務をしていたから料理は結構いいものを作れるから嫁の家族にも好評を貰った。
料理の技術がなければ一生疎遠のまま、妻とも仲が悪くなっていたかもしれない。
色んなことを思い返すとタイミングよく全てが収束していっている。
生まれてくる子が20歳になる頃には還暦を過ぎているが、少なくとも中学生前に親の葬式に出るのはとても辛いことだろうと思うから、もう少し生きることにした
中学1年の頃にバイク事故で祖父を亡くした時、人から指摘されて初めてショックを受けているのだとわかった。
30年も前のことだが覚えているくらいショックが大きかったのだろう。
そんな目に合わせるのは少しかわいそうだ。
妻の大きくなったお腹に耳を当てると自分の2倍もの速さの心臓の音が聞こえた。
バクンバクンバクンバクンバクンバクン。
もうすぐ貴女は現れるのか。
沢山のことを話しあえればいいと思っている。
この先待ち構えている混乱の時代を乗り越えるため、現実と向き合っていくため。
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