東急ハンズの売れ筋はこの男から始まるという人とくちゃぱっくの会社の女社長さんと10分ほど話した。
引き止めておくだけの質問力の著しい欠如からか、そのくらいしか聞けなかった。
有意義とは言えないが、自分にとって得るものはあった。
男の方は商品と人、そこには愛情がなければいけないと言った。
「基本的には日本の商品はほとんど飽和状態になっています」
つまり、いいものばかり、ということだろう。
そう言った。
「愛情でしょうね。手を加えることです」
商品と人との間に手を加え、商品を愛する。
押し売りではなく、利益は考えず、商品のためを思う。
効率的な商品にはよい部分が欠落することがあるので、手間隙かけた商品が売れるのだろう。
女の方は55から商売を始めたと言った。
みんなに反対され、馬鹿にされたが、今は順調に進んでいるといった。
将来は天然ものの石鹸を作りたいと言っていた。
嘘をつかない、天然素材の石鹸を作って札幌から発信していくのだと言っていた。
男の人は大阪の人で市政にもアドバイスをしているらしく、これからは横浜でしょうといった。
先駆者となる地域、その人にとって横浜という場所は商品を売るにも新しいことをやるにも魅力的なのだろう。
西欧の文化に目が開いていて、積極的にいいものを取り入れ、自己啓発の気持ちが強いとのこと。
自分、札幌なので、「札幌には興味ないのですか?」と聞くと、「興味ないですね」とバッサリ。
「官民甘えすぎなんですよ。公共のもの同士、民間同士、公共と民間同士、それぞれ甘えすぎです」
未来がありませんね、とまでは言わないまでも、「どうせこのままでしょう」という雰囲気には邪推かもしれないが見て取れた。
北海道は中央から援助金をもらっている。
援助金を減らされるとあたふたする。
サービスでも横浜のホテルのレベルと、札幌では大人と子供くらいの差がある。
自分も言われて反論できないところがあった。
ただ、札幌市民として、さすがにカチンとはくる。
いや、北海道民として、目に物見せてくれるという気持ちは起きた。
自らを高めること、多くのものを吸収すること。
ゆっくりでも進まなければいけない。
後日カチンときていたので、いいふらしてやった。
「札幌には興味ないと言われた。人の幸福のことを一生懸命考える人にならなければいけない。洗練されていくもの、洗練しようとするもの、これはすべてアートだ。アートたるには、接するものを愛していなければいけない。愛してこそプロ意識も洗練されたものも生まれる」
・・・酔っ払っていたので伝わったかどうかは知らないけれど、いろんな人に言った。
帰りのタクシー運転手にもちらっとふってみた。
「札幌には興味ないといわれましたよ」
夜道を走り、家の前で停めてもらい、深夜料金の表示がコロコロかわっていくのもほうっておいて、メーターを止めてもらわないで話をした。
少しくたびれた痩せ型の中年なすびのような運転手だったが、口をすぼめたような感じでしみじみと語りだした。
「その人がどういう人かは知りませんけどね、僕なんてこういう仕事するしかなくて、一生懸命毎日生きて、それでも日本国民としての意識はなくなっているわけじゃないですよ。僕らこうやって生きていくしかないからね」
なんとも形容しがたい、ただ強く「生きている人だ」と思った。
表には強く出ない、それでもしっかりと持っている魂の強さを感じて、涙がすっと出た。
主張はしないかもしれないけれど、意識は強くある。
耳を傾けて、その心を聞けば、そこには強い人がいる。
卑屈になるわけではない、さりとておごるほどでもない、生きているというものの中に、日本人としての意識は希薄ではないと強く言える、その強さが胸を打った。
私は一地域としてあまり軽んじないで欲しいと思う。
私は佐渡と山形で大変な恩恵を受けて帰ってきた。
人情があって、人のやわらかい気持ちがあって、一生懸命、しかも何も不自然ではない振る舞いで人への優しさを見せる。
あの人たちの姿こそ、本来の日本のあるべき姿なのではないかと思っている。
ものを売る立場としては、見込みのある場所、人の姿勢、そういったものを見てしまうのだろうと思う。
でも私は自称でも作家としての視点だから、人の魂を見る。
友達に「この人見えているようで何にも見えてないですよ。へっへっへ」と紹介されてしまったが、あからさまに「すげぇ」と思わせなければどうしようもない。
とにかく、リベンジは必ずしてやろうと思う。
そうして、「いかがです?熱のある地域でしょう?」と言えるほどになってみたい。
もし、他の地域の方、この文章を読んでいるのなら、「自分の地域は?」と考えてみてください。
そして、意識から変えてみてください。
明日の日本を作るすべての人たちへ。
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